風と火と農家住宅 新建築住宅特集 2021年6月号掲載

新建築社住宅特集2021年6月号 風と火と農家住宅 掲載

風と火と農家住宅

2019年8月から設計・工事を進めてきていた農家さんの住宅、風と火と農家住宅、が新建築社住宅特集(2021年5月19日発売)に掲載されました。
建築主は愛媛県旧松山市で唯一の30代のお米農家さんで、私たち建築家の目線からみると、都市計画上の大事な社会インフラである松山の田んぼの将来を担っていく大事な存在になります。そんな建築主が松山市の今後の農業を担っていくのにふさわしい農家住宅のかたちとはなにか?というのが、設計のはじまりの大きなポイントでした。

さらに建築主は自然農法によってお米を育てて、自分たちの生産するお米の価値を高めて専業農家として自立していく若い農家・新規農家のための育成にも尽力されています。一口に農業といっても、西日本と東日本では大きくその環境は異なり、また四国は特に違うようです。一番わかりやすいのは、農家あたりの面積です。農家さん一人に対して、東日本は平野が多いため広い面積が確保出来て集約された農業が営まれています。それに対して西日本、特に四国は山間部も多く平野が少ないため、どうしても農地を集約するということが地形の面から難しくなります。それに対して建築主が考えていらっしゃったのは、小さな自立できる農家がネットワーク化されて地域を支える、というすがたでした。

そして建築主は自然農法というスタイルに由来して、自分たちの田んぼ・畑に限らず、その上流の東温や久万高原の山間部から下流の瀬戸内海の海までを含めた流域を一つの単位として、自然環境を整えることで、上流から下流へと大気から地表から地下からと、様々なルートから松山市の平野部へと運ばれてくる循環の流れを整え、より自分たちの活動を活かせる環境を作り出すために活動をされています。

自然と寄り添う農家の暮らし

左:古い農家住宅の配置・間取り図 右:計画された農家住宅の配置・間取り図

私たちは、その建築主を実現するためにまず、松山市の平野部の古い農家住宅を調べました。
そこから見えてきたのは、農家さんたちが行ってきた地域の自然環境との寄り添い方でした。まず注目されたのが庭と広場の配置でした。南側ではなく座敷に対して東西に庭と広場が配置されていました。そして、その庭と広場に対して東西軸に続き間が並ぶように配置されていました。この地域は東に山、西に海があり東西に川が流れています。そのため瀬戸内海特有の夏の海陸風は、この東西の川の軸に沿って流れます。続き間の配置は夏の風へと対応から導かれているものでした。
次に注目されたのが北東に構えられた大きな納屋(道具を仕舞ったり屋内での農作業を行う場所)の存在でした。納屋は南に屋外農作業場をもつ位置に配置されています。建物の中で一番大きなボリュームを持つこの機能がこの位置にあるのは、冬の北風から南の屋外農作業場を守るためだと推定されました。実際に過去の気象データや現地での計測の結果から、冬は北西の方角から風が吹いてくることがわかり、風下側の風環境が穏やかであることを確認しました。施工が始まってからも、冬はこの東側に職人さんたちが集まって休憩していた様子は、今も昔も変わらない風景のように感じられました。
このように先人たちの知恵を継承し、それを現代の社会環境の中へ取り込み、古くて新しい農家住宅とはなにか?を考えていきました。

敷地は、お父様が先祖代々使ってきた田んぼが休耕田として家族の畑として利用していた東西に長い土地が候補でした。周囲を調査すると近くにため池があり、下流の田んぼの起点に位置していました。設計がはじまる前に道路に近い下の土地と道路から離れた上の土地のどちらに建設するのか?という議論がありましたが、このため池が上流にあったことが上の土地に建てる一つの決め手になりました。もう一つの決め手は地盤でした。地形図を読み解くと山からの尾根がなだらかに続いてきた先端に位置する場所であることが見えてきて、もと田んぼという立地でありながらも比較的地盤が高い位置にあることが推定出来ました。実際に地盤調査を行ってみても1m以内に岩盤があり、表面の地形と地下の地盤がリンクしている素直な環境であることがわかりました。

自然を手繰り寄せる暮らし

調査から見えてきた自然との寄り添い方をベースに、どのように建築主がそこに住まい、その豊かさを手繰り寄せ、享受できるようにするのか?を考えていきます。敷地が東西に長いため、東西面は長方形の短辺となり、東西の風を受ける面がどうしても建物全体に対して小さくなってしまいます。そのため古い松山市の農家住宅で見たように、東西に連続する続き間として部屋を並べていきます。広い敷地でしたが建築コストを下げるため2階建てとして、この続き間は吹抜けを介して上下でも連続して続くことで、建物全体が大きな風の通り道として機能します。この風の通り道を邪魔しないように中央が空洞で空いた門型の柱・壁が並ぶように構造形式を整えることで、敷地を東西軸に吹く風を室内へと手繰り寄せます。
そして門型を登梁による屋根勾配をもったフレームとすることで構造の骨組みは風を導くだけでなく、水も導くかたちへと洗練させていきます。梁から突き出た垂木は夏の太陽光をカットするために太らせて長く伸ばし、その先端から滴り落ちる雨粒を受けるために外構は砕石敷きを主体として緩やかな勾配をもって下流へと水を導いていきます。
外壁には焼杉を使用しています。焼杉は木材を人工的に焼くことで化学的に物質の組成を変化させて、その耐候性を増しています。それでありながら、いずれは自然の中へ還っていくことが出来る素材です。山と海とのつながりを意識する建築主の活動にフィットする材料だと考え、この素材をどのように建物の中に取り入れていくかを試行錯誤しました。

東の田畑越しに農家住宅をみる
1階リビングから南の田んぼをみる
2階アトリエの様子。春は東西面から朝日夕日が室内を黄金色に輝かす。

この住宅が、地域の今後の農業の担い手にふさわしい暮らしのかたちや、
地域の中で進歩・進化していく住宅を考える一助になれば幸いです。


これから田植えの季節をはじめ、季節の移ろいの風景の撮影を予定しています。H.P.のworkには撮影を終えてからの投稿を予定しております。
続きは、お近くの書店で住宅特集6月号、住宅特集のyoutubeにてご覧ください。毎月号の1,2組がyoutubeの新建築社のチャンネルで紹介されます。今月号では風と火と農家住宅が選ばれ、配信されております。

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