愛媛・松山で自然の 風 を利用する暮らし方-環境を読み、風の道をつくる
自然の風を利用した 風通し の良いパッシブな暮らしを実現しようとするには、その場所の 風 がどのように流れているのか?をしっかりと把握することが大事です。他の地域から移住してきた場合、その地域の卓越風がどのようになっているのか?はしばらく住んでみないとよくわからない、ということになりやすいです。幸いなことに松山市をはじめ、瀬戸内海沿岸の市町は海陸風と呼ばれる海と山のあいだをぐるぐると回る風の流れを理解すれば、概ねの風の流れを予測することが出来ます。
季節の風の向きがわかったら、あとはその向きに合わせて風の入口と出口、そしてその出入口をつなぐ風の道を整えてあげれば、自然の力で空気が動き出します。心地よい季節に自然の風をしっかりと感じたいという思いがある方は、しっかりとその場所の自然の関係を読み解いて、窓の配置や風を受け止める壁などを整えてあげてください。
具体的に海陸風の流れを見つける最初のステップは、海陸風の軸がどうなっているのか?ということを把握することからはじまります。地図や航空写真をまず開いてみます。そして、その地域の山の塊そして山と海をつなぐ大きな川と平野を見つけてください。海と山が起点となり、平野と川がそのあいだの風の主要な通り道となります。瀬戸内海の市町の風向のデータを見て見ると、それぞれの場所の海と山と平野の関係にもとづいて風の向きが変わっていくことが見えてきます。






















瀬戸内の自然の風=海陸風の軸を見つける。山と海の関係
では松山市の道後平野を例に行っていきます。松山市道後平野の場合は東側に西日本一高い石鎚山を擁する石鎚山系が大きな山の塊の一つになり、もう一つ高縄半島の最高峰の高縄山がもう一つの大きな山の塊です。その周囲から瀬戸内海へ向かって道後平野を流れる重信川と石手川が大きな川になります。この山と海、そしてそれをつなぐ川・平野の関係に注目してください。

次にその山の塊から海までの谷や平野の形を見てみましょう。道後平野の場合は東から西へ向けて平野が伸びて西に行くほど広がっていることがわかります。そして広がった先で海に到達します。こうした地形を三角州と呼びます。



実際に気象庁松山地方気象台の風向データをグラフにしたものがこちらです。16方位に対して中央から伸びている面が大きいほどその向きから風が来やすいことを示しています。松山気象台の場合は北東と西南西に飛び出すようなかたちをしています。特に夜の風向が北東に極端に偏っています、これは松山気象台が松山城の東側にあり石手川の影響を強く受けているためと思われます。
道後から奥道後を抜けて今治方面へ車で抜けたことのある方ならわかると思うのですが、急な狭い峠となっており、そこからの山風が海へと吹くため、このように方位が絞られたかたちとなっているのでしょう。それに対して、日中の海風は拡がりがある風配図となっています。地形の条件にも寄りますが、海風の方が平野側が広がっていっていることが多いので、風向きのパターンも広がっていく傾向があります。
この風向が同じ道後平野のなかでも、位置によって若干向きが変わってきます。



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こちらの風配図は風と火と農家住宅の設計の際に簡易風向風速計を敷地に設置させて頂いてデータを取らせて頂いた結果です。気象台のデータと同じように日中と夜間で風向きが切り替わる二つの方向を持つ特徴がこちらでも見て取ることができます。そうした同じ特徴を持っている一方で夜間の風向が松山気象台では北東だったのに対して、こちらでは東に偏っているのがわかります。
これは気象台では石手川の影響が強かったのに対して、こちらでは重信川の影響が強く現れている結果だと考えられます。このように平野の位置によっても、風の向きが変わってくる可能性があるため、現地での風のデータを取得することは、実際の現地の風向の特徴を理解し、それに基づいて、気象庁が蓄えている膨大な気象観測データをどのように読み解くべきか?の手掛かりを提供してくれるので、時間と環境が許すようでしたら、実施してみるのが良いと考えます。
このように海陸風は昼と夜とで風の向きが切り替わります。凪という言葉を聞いたことがあるでしょうか?この凪は海から山、山から海へと風向きが切り替わるときの、ちょうど間の時間に訪れる無風の時間のことを指しています。ではなぜこのように風向きが切り替わるのか?それは海陸風の風を動かしている仕組みに原因があります。
海陸風を動かす仕組み
空気が動き風が生まれる原因の一つが空気の暖かさと冷たさ、温度差です。お風呂の水はほおっておくと暖かいお湯は上昇し上に溜まって、冷たい水は下降して下に溜まるといったことを聞いたことがあるかもしれません、同じように空気も暖かい空気は上昇し、冷たい空気は下降します。この原因は物体が熱を得たり失ったときの膨張と収縮です。物体は熱をもつと膨張します。膨張すると密度(体積当たりの重さ)が軽くなります。浮き輪が水に浮くように、軽いものが重いものに囲われたとき、軽いものが浮かび上がります。
逆に、物体は熱を失うと(冷たくなると)、収縮して密度が重くなります。そうすると石を水に投げると沈むように、重いものが軽いものに囲われたとき、重いものは沈み込みます。こうした物体、今回の場合は空気、への熱の出し入れの結果として、浮かび上がったり、沈み込んだりする=空気が移動する=風が生まれる、ということが起こります。ちなみにこの密度の差によって浮いたり沈んだりする特徴を使って密度の軽いウレタンを基礎下に充填して浮力を得て地盤を改良することをやったりします。



海 と 山 を比較した時に、海の方が温まりにくく、冷えにくい 逆に、山の方が温まりやすく、冷えやすいという特徴があります。この海の特徴は年間の水温の変化にも表れていて、空気の気温や地表の表面温度よりも遅れて暖かくなったり、冷たくなったりします。また最大、最小値が低い、全体での温度差が小さくなることも特徴の一つです。こうした特徴は海(水)に限らず、温まりにくく冷えにくい物質に共通するものです。
こうした海と山の温まりやすさ冷えにくさの違いによって、太陽が出ている日中は太陽からの熱を受け続けるので温まりやすい山が熱くなり、その熱によって空気が温められて上昇し、温まりにくい海が相対的に冷たいため空気が下降していく二つの動力源が生まれます。こうして山で温められた空気が上昇し、やがて大気で冷やされて相対的に冷たい海へ下降して、再び地表で温められて山へと向かう循環の流れができます。日中に海から山へ風が流れるというのは、この循環の地表面のところを指しているということです。
夜では先ほどと逆の関係となり、海の方が冷えにくいので暖かく、山の方が冷えやすいので冷たくなるため、上昇と下降の動力源が生まれ、地表面では山から海へ風の流れることになります。
こうした循環も日中から夕方・夜へ向かうなか、夜から朝へ向かうなかで、海と山の暖かさがどこかで同じになるタイミングが訪れます。そうすると、二つのあいだに差がないため、どちらへも空気が動き出すことが出来なくなり、「凪」と呼ばれる無風の時間が生まれることになります。