風と火と農家住宅|Farm House of Wind and Fire


風と火と農家住宅 秋の俯瞰図
photo : miyahata shuhei 秋の俯瞰 敷地は民家と田んぼが混在する地方都市の郊外、遠くに瀬戸内海に浮かぶ島々が見える。海と山をつなぐ風が木格子の大開口部をすり抜けて室内へと流れていく。
風と火と農家住宅 南外観 青々した田んぼと母屋
photo : miyahata shuhei 夏の水田と南外観 焼杉の外壁のなかに三つ大きな開口部が南からの光を室内に取り込む
風と火と農家住宅 窪田小学校側から見る 田植え後の水田に浮かぶ母屋
photo : miyahata shuhei 田植え後の夕景 水田に浮かぶ母屋の風景


クライアントは旧松山市で唯一の30代の米農家である。自然農法による地域に寄り添った新しい農業を取り組み、地域の山林から平野、海までの自然環境を整えることが農業活動の大事な基盤になると考え、林業の支援もされている。

クライアントとの会話を通して私たちが感じたことは「農業とは自然環境と社会を束ねるヒトの営みの一つ」ということだった。農家さんたちは片方で気候や地形を読み、寄り添いながら、もう片方で地形を造成して水路を通し水の流れを変え、時には草木を焼払い灰として有機物/無機物の循環の流れを変え自らの方へ手繰り寄せる。「そうした知恵を後世に引継ぎながら先人は地域を守ってきた」ということだった。

自然に寄り添う
風の農家住宅

現代の農業は機械化され、核家族化した家庭が地域を支える。必要な広さや労力は機械によって圧縮されて、半分にも満たない。敷地も建物もコンパクト化したなかに先人の知恵をどのように引き継ぐか?が課題となった。

この地域の古い農家住宅を調べた。最初に東西を庭と広場に挟まれた続き間があることがわかった。これは地域の夏の卓越風を取り込むための配置であることが推定された。次に北西の角に大きな閉じた納屋があることがわかった。これは南に面する農作業場の冬の北風からの防風対策であると推定された。

最後に大きさである。大家族で営まれていたと思われる巨大な家屋は、地域の象徴のような存在だったのだろう。

まず東西軸に吹く卓越風への対応の仕方を取り入れることにした。建物全体を東西に開口をもった大きな風洞と見立て、収納やトイレなどの閉じたボリュームを端に寄せ、開いた空間を東西軸に並べ通風経路を確保し、風の流れを整えた。東西の大開口には格子を設けることで、夏の朝日、西日はカットし、外部からの視線を和らげながら、風を取りいれている。農作業スペースは先人に習い、東側へ配置して冬の北西からの風に備え、その配置を起点に、内部の間取りは決定された。

風と火と農家住宅 配置図
左:配置図、右:周辺の古民家(豊島家住宅)配置図
風と火と農家住宅 吹抜け内観
photo : Shinkenchikusha リビングから東をみる。吹抜けを介して大きな風洞が東西立面をつなぐ。
風と火と農家住宅 吹抜け西日
photo : Shinkenchikusha リビングから西をみる。開口部の木製格子によって夕日が拡散され室内が黄金色に染まる。
風と火と農家住宅 西立面 夕日
photo : Shinkenchikusha 西外観夕景 焼杉で覆われた外観 木製格子が付きの大開口部が風や光を柔らかく取り入れる

自然を手繰り寄せる 
火の農家住宅

外壁には瀬戸内で多くみられる焼杉を採用した。

焼杉は木材を人工的に焼くことで耐候性を高めている。人工的でありながら、自然循環の一部にある姿は自然を手繰り寄せる農業に似ている。

焼杉の杉は松山の上流の久万高原町から切り出されてくる。原材は集成材に使わる板を削いで製作されて、無駄な廃棄物が生まれていることがわかった。削ぐ工程をなくしてラミナーをそのまま焼いて30mm厚さの焼杉を製作した。雨掛かりの大きくなる大開口を設けた東西切妻の妻面にこの30㎜の焼杉を使うことで耐候性を補いつつ、地域の木材利用を促進させている。

焼杉は木材が燃焼することで化学的に組成が変化し、その性質を獲得する。その中身は炭素Cと酸素Oと水素Hである。そのもとは空気中にある二酸化炭素CO2と水H2Oであり、植物の光合成を通して、木材とし人の手に届き、人為的に炭化させて、やがて風化して再び二酸化炭素CO2と水H2Oとして循環の輪に戻っていく。火(技術・文化)と環境との歴史がそこにはある。

この住宅が地域の農業の担い手にふさわしい暮らしの形とはなにか?地域のなかで進歩・進化してゆく とはどういうことか?を考える一助になれば幸いである。

風と火と農家住宅 循環のダイアグラム
循環のダイアグラム
風と火と農家住宅 久万高原町の山林
久万高原町の山林
風と火と農家住宅 製材所
製材所に運ばれた木材
風と火と農家住宅 焼杉製造風景
焼杉製造風景
風と火と農家住宅 朝日
photo shinkenchikusha 朝日が昇る。遠くに見える石鎚山系からの山風から瀬戸内海からの海風へとゆっくりと切り替わっていく。
photo miyahata shuhei 北の家庭菜園からみる。鶏の鳴き声で目覚める朝。鶏小屋があり、子どもたちの遊び場でもある。
北外観と家庭菜園の収穫風景 北立面は冬の北風に備えて開口部を最小限に抑えている。
風と火と農家住宅 農作業スペース
農作業スペースから東をみる。朝の光が木格子を照らす。
東外観 大開口からの光と風が屋内へと導かれる。
風と火と農家住宅 書斎
photo shinkenchikusha 春の書斎 農作業スペース越しの朝日が伸びる
風と火と農家住宅 2階寝室をみる
photo shikenchikusha 春の朝 2階寝室
風と火と農家住宅 2階南バルコニー
photo miyahata shuhei 2階バルコニーからの風景
風と火と農家住宅 午後の光
photo shinkenchikusha 午後の2階 南からの光が白い壁に反射して拡散する。
風と火と農家住宅 午後のリビング
photo miyahata shuhei 午後のリビング 窓から光と風が導かれる
風と火と農家住宅 外観
photo shinkenchikusha 建築を南西からみる。外構は栗石敷き。大屋根からの雨水を受け止め南北の家庭菜園へとゆっくりと水を浸透させる。
風と火と農家住宅 南外観 日が暮れ始める
photo miyahata shuhei 南外観 日が暮れ始める
廊下とスリッド階段が東西をつなぐ
風と光を通すスリッド階段
階段下は子供たちの遊び場
風と火と農家住宅 日常の風景
家庭菜園から摘んだ菜っ葉
風と火と農家住宅 日常の風景
夕食の支度 夕日で薄っすら光格子
風と火と農家住宅 日常の風景
キッチン前の窓から外の子供たちの様子を伺う
photo shinkenchikusha 春の夕日で黄金色に輝く室内
風と火と農家住宅 吹抜け西日
photo shinkenchikusha
photo shinkenchikusha 日が沈む 風向きが海から山へと切り替わる。
photo miyahata shuhei


建築データ

所在地:愛媛県松山市郊外
用途地域:市街化調整区域、もと田んぼ用地を農地転用
用途:農家住宅
構造:木造
規模:2階建て
建築面積:89.04m2
延床面積:132.5m2
設計期間:2019/08~2020/08
工事期間:2020/08~2021/04
構造設計:三野裕太
施工者:土居建築株式会社
クライアント:うかのわ https://ukanowa.green/

写真
新建築社写真部 
瀬戸内編集デザイン研究所 / SETOHEN 宮畑周平 https://www.setohen.com/

取材協力
焼杉 共栄木材 https://www.kyoei-lumber.co.jp/

掲載 
新建築住宅特集 2021年6月号  掲載紹介ページ
新建築.ONLINE youtube
wallpaper* web 掲載ページ(1996年創刊 イギリスのデザイン、ファッション、旅行、アート、ライフスタイル雑誌)

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