山林 / 薪 で地域エネルギー自給はできるのか?-年間成長量と暖房給湯熱量の比較から

薪 になるコナラ林 里山の森
コナラ林
久万の複層林_大径材
スギ・ヒノキ林
伊予の山林_極相林
シイ・カシ林

山林が 薪 を生み出す力

自然に寄り添ったまちづくりを考えたいという方と話をする機会を得ると、度々、地域の 山林 の 薪 でエネルギーを 地域自給 をすることは出来ないのか?という質問を頂くことがあります。私としてはライフスタイルを変えれば可能性はあるし、変えなければ難しいというのが答えだと考えています。山林の燃料の簡単なシミュレーションをしてみましょう。日本の山林のうち育林・伐採が主に行われる人工林の面積が全体のおよそ40%を占めます。その年間の成長量が0.48億m3とされています。これだけ聞くと途方もない量の木材の資源が毎年森林で自然に成長しているように聞こえます。果たしてこの数値は本当に膨大な量なのでしょうか?

山林 の成長量をエネルギーとして捉えると?

この0.48億m3が家庭の暖房給湯のエネルギーをどの程度賄えるのか?を考えてみたいと思います。日本の人工林の主な樹種はスギとヒノキですので、比重0.4t/m3を計算値として仮に採用した場合、年間の成長量は0.192億tになります。薪の重量当たりのエネルギー量は20MJ/㎏ですので、20GJ/tです。そうすると年間の成長量のエネルギーは3.84億GJとなります。日本の家庭の一世帯当たりの暖房給湯に使われる年間のエネルギーが23.7GJとされています。

仮に薪ボイラー・薪ストーブのエネルギー変換効率が配管のロスを含めて80%と仮にすると、約3億GJが薪から暖房給湯用のエネルギーとして取り出すことが出来ます。よって薪で1296万世帯の暖房給湯を賄える計算になります。日本の世帯数は5431万世帯(2020年)ですので、全体の約24%で、あくまで家庭の給湯暖房のみに絞ったもので、成長量を建材などには使用せずに全て薪として消費した場合です。

こう考えると江戸時代にほぼ全ての世帯の暖房給湯を賄い、そして大火で燃える都市建造物をはじめとした建築用材も自給していたことが奇跡のように感じてきます。当時の窯の薪のエネルギー変換効率は現在の1/10以下で大きな改善が見られる一方で、人口は江戸末期で3400万人程度だったものが約3.7倍の1.25億人に増加し、消費する一人当たりのエネルギー量が10倍以上に膨れ上がっている結果です。

年間森林成長量で全国の家庭の暖房給湯を 山林 / 薪 で地域自給できる世帯数

家庭でのエネルギー消費 と 住宅 の関係

こうしたライフスタイルや設備のエネルギー消費の影響は、都市部に多い集合住宅と地方に多い戸建て住宅という住まい方・世帯当たりの人数の違いや住戸・設備機器の更新頻度の違いにも見られます。現状の集合住宅と戸建て住宅のエネルギー消費量は地域にも寄りますが1.5倍程度、戸建て住宅の方が消費している傾向にあります。

これは古い住宅で断熱性能が悪いなかで冷暖房をする場合に、1戸あたりの表面積が小さい集合住宅の方が断熱性能が優れることでエネルギー消費が抑えられる面と、そして都市部に集中する集合住宅の方が更新頻度が高いため最新の設備機器の割合が高いことに起因しています。田舎ほど建物の更新が遅く、そのため断熱性能や設備機器が古いままで、ライフスタイルは現代的になっているため、地方・田舎での割合が多い戸建て住宅がエネルギー消費が高い傾向を示します。

また少子高齢化の進行で戸建て住宅においても独居老人の単身世帯が増えているため、地方では世帯あたり世帯人員は戸建てと集合住宅とのあいだで数値が近づいていっている傾向があります。こうしたライフスタイルの変化はエネルギー消費へ大きな影響を与えています。

集合住宅が効率的であることは正しいのですが、この数値を見るときに少し注意も必要です。一般的に集合住宅よりも戸建て住宅の方が世帯人数は大きく、戦後の個室化の影響でエネルギーを消費する場所が増え、キッチンや浴室などの大きな設備機器を共有することで居住者あたりのエネルギー消費は抑えられる反面、世帯当たりのエネルギー消費が上がっていることも影響しています(個室化がエネルギー消費を数倍、十数倍にする傾向は薪を暖炉にくべていた時代から西欧で指摘されています)。

そのため戸建て住宅の方が世帯単位で見たときに数値が大きくなりやすい傾向があります。個人単位でも集合住宅の方が効率的である数値を示しますが、それは世帯単位ほどの差ではないことに気を配る必要があります。国交省の平成30年の住宅・建築物のエネルギー消費性能の実態等に関する研究会の戸建てと集合住宅の比較によると(リンクPDF17枚目)の世帯当たりのエネルギー消費の数値なので年度が異なるデータになりますが、持ち家と戸建て借家の世帯当たりの世帯人員が2.90人/世帯なのに対して、その他の借家は1.96人/世帯になります。

エネルギー消費の方は戸建て41.4GL/世帯・年に対して、集合住宅23.7GL/世帯・年と1.7倍の開きがありますが、一人当たりに置き換えると、戸建て14.3GL/人・年と集合住宅12.1GL/人と1.2倍程度の開きしかありません。項目別に見ると暖房が特に開きが大きく、世帯当たりで2.8倍、一人当たりで1.89倍になり、戸建てと集合住宅のエネルギー消費の違いは暖房の違いと還元して良さそうです。

冷房、給湯、調理は一人当たりでは0.95倍、0.99倍、0.78倍と戸建ての方が効率的という結果になっており、暖房と冷房で同じ傾向にないところを見ると、一概に戸建てと集合住宅間のエネルギー消費の違いを断熱性の違いへ還元するのも危険に感じます。

エアコンで暖房を取るのと灯油ストーブや電気ストーブを使うといった違いなど、使う機器や機器の使い方も十分に加味した比較が必要と感じるところです。また地域別でみたときに北国で灯油消費の割合が高く、暖房のエネルギー消費が高く、かつ戸建ての比率が高いという面も関係があるのかもしれません。暖房と冷房のあいだの傾向の違いは建築時期別世帯当たりのエネルギー消費にも言え、冷房の場合はほぼ差がない、古い建物がむしろ効率的なのに対して、暖房は新しい建物が明らかに効率的という結果を示しています。

世帯当たりのエネルギー消費量、戸建てと集合住宅の比較
一人当たりのエネルギー消費量、戸建てと集合住宅の比較
一人当たりの暖房エネルギー消費量、戸建てと集合住宅の比較
一人当たりの冷房エネルギー消費量、戸建てと集合住宅の比較
1森林成長量と家庭のエネルギー消費量 2地域・国によって異なるエネルギー消費 3木材を乾燥させることの大事さ

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