風と水の間の家

House of wind and water in the old town

北側外観:建物越しに石鎚山系。塀越しの風を取り込む大きな垂れ壁。
南東外観:塀と外壁で室内を囲い、密集地域において住環境を整えている。
コンセプトスケッチ:風と水と太陽と視線のダイアグラム




街に閉じ、自然へ開く暮らし

敷地は石鎚山脈と瀬戸内海に挟まれた平野部の古くからの住宅密集地にある。クライアントはこれから高齢期を迎える終の棲家としてこの地域の自然を感じながら静かに生活できる場を求められた。密集地特有のプライバシーの確保という課題と、古くからその市街地を育んできた風や水に対して開くという相反する二つの課題を一つのかたちとして解くことを目指した。

瀬戸内石鎚山系の古いまち と 水

地形と洪水
瀬戸内海と石鎚山系に挟まれた平野部は古くから街道が通り、いくつもの集落が存在した。急な勾配な岩壁をもつ石鎚山系北斜面は平野部に洪水をもたらす元凶であり、技術力の乏しい古代においては土地選びこそ、最大の治水技術だった。
地質と地下水
急勾配な岩壁がもたらしたのは、洪水だけではなかった。岩石は風化とともに、細かくなり、砂となって平野部へと押し流され堆積していく。そうして出来上がった砂の層は、地下水脈を通す帯水層として機能する。山から平野部へと注がれた水は、この帯水層を通して、河川から離れた、洪水の恐れの少ない地域へも広がっていく。
二つの水
洪水と地下水、この二つの水から、瀬戸内石鎚山系の古いまちの土地は選ばれていった特徴がある。
長い年月が過ぎた今でも、化石のように古いまちには自然の営みと、そこに寄り集まって暮らす狭い街区が残っている。

左図:ドローン撮影 東西に細長い敷地と建物形状  右図:東西に通った廊下、北面はポリカーボネイドで構造躯体を挟み、柔らかな光を取り込む。
敷地と風のダイアグラム:過去の気象データと現地での計測から南北軸での風の動きが特徴であることがわかった。
南北に吹き抜ける風 と 東西に長い敷地

敷地の風環境を調査すると、南北方向にこの地域の卓越風が流れていることがわかった。敷地は密集地域に位置しながらも、北に駐車場用地、南に空き地があるため、風を取り入れやすい立地にあることがわかった。東西に細長い敷地形状の中で、出来るだけ敷地境界と建物とのあいだの距離を取ることで、建物へ風を取り入れやすいように配慮した。東西に細長い建物形状とすることで、南北の風をより広い面で受けとめられる配置計画を考えた。

断面ダイアグラム:屋根とポリカーボネイドで構成された垂れ壁によって、風・水・太陽の動きを整える。右図:冬の風、夏冬の地下水温のリサーチ。
ゆるやかに敷地の内外を仕切るポリカーボネイドの塀

敷地が密集地域の細長い敷地形状であるため、における周辺建物や路地からの距離感をコントロールしつつ、敷地内への圧迫感を軽減するように配慮した。

古くから町を潤してきた地下水 の 有効利用

敷地が位置する石鎚山系と瀬戸内海に挟まれた平野部は、地下水が豊富であることで知られる。この豊富な地下水を汲み上げ、塀と建物のあいだに地下水の安定した水温をもった水盤を設けることで、建物周辺の環境を整える。塀で囲われた敷地内では、水盤と空気がゆっくりと触れ合い熱交換をおこなう。

住宅密集地における 終の棲家としての住まい と 自然の営み

これから高齢期を迎えるクライアントへのバリアフリーを考慮し、平面計画は平屋とすることが求められた。同時に、この地域の自然を感じとれる環境を求められた。そのなかで課題は、風を導くことと塀による周囲との距離感のコントロールの両立であった。

風をつかまえ、太陽光を制し、雨を導く 屋根

梁のレベルを高めに設定し垂れ壁を設けることで、塀上空を通過する風をつかまえ、水盤と触れ合った空気を室内へと導く。庇を深く設け、垂れ壁をポリカーボネイドでつくることで室内への太陽光をコントロールし、建物に降った雨は緩やかな屋根勾配をつたって、 軒先から 水盤へと導かれる。

化石のように今も残り続ける地方の古い住宅密集地。そこには古くからの人と自然との共生のかたちがあった。その自然の営みを読み解き、建築のかたち、自然の流れを整えていくことで、社会と社会の隙間に、静かに自然を感じる、新しい営みの循環が生まれる。地方の住まいの一つの選択肢として、古い住宅密集地に光を当てられたのであれば幸いである。

左図:敷地と風・水・太陽の流れ 右図:路地越しに建物をみる、ポリカーボネイドの塀が緩やかに敷地の内外を区切る




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写真
建築写真 撮影 新建築社写真部(ドローン写真以外)
リサーチ写真  撮影 studio colife3

掲載 
新建築住宅特集 2020年3月号

風と水の間の家” に対して1件のコメントがあります。

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