風と水の間の家 新建築住宅特集 2020年3月号掲載

新建築社住宅特集2020年3月号表紙

新建築社は1925年(大正14年)の創業の、老舗建築雑誌社です。
住宅特集は日本で建築家、建築家に住宅を頼もうと考えている人に最も良く購読されている雑誌の一つです。
今回、掲載頂いたのは 私が前職退所後 松山に来て はじめて竣工した仕事でもあり、大変うれしい知らせとなりました。
お近くの書店でもし並んでおりましたら、ぜひ手に取ってみてください。

石鎚山系と瀬戸内海にはさまれた平野部の古いまち の 自然とまちとの関係の特徴

計画の概要

敷地は瀬戸内海と石鎚山系に挟まれた平野部にあります。この地域を特徴づける自然の恵みが二つあります。その一つは石鎚山系に降った雨が地下へ浸透し平野部で湧き出てくる湧水。もう一つが山と海の間を行き交う海陸風です。
クライアントは、これから高齢期を迎える終の棲家として、その敷地を選ばれました。地域のこの二つの自然を存分に感じながら、静かに過ごせる場所を求められました。
二つの自然の恵みは、同時に自然の厳しさへもつながります。冬や春先の石鎚山系からの強い吹きおろしの風や夏の大雨による山からの土砂が混じった洪水など、風も水も恵みの対象であるとともに、畏れの対象として存在してきました。
古いまちほど、その恵みと畏れの両面から敷地をみて、どこにまちを形成すべきなのかを考えて選択されてきたと思います。瀬戸内海と石鎚山系に挟まれた平野部は古代から街道が整備されて、讃岐から伊予へ、伊予から土佐へと通じていました。その道中には、まちが形成されていきました。その場所は、恵みと畏れの両面から選択されていきました。
しかし今では、そのような古いまちは、周辺を住宅地に囲われて、車社会化を経て、細い路地が入り組んだ建物が密集して、通常の地方都市の価値基準からすると住みにくいエリア、アクセスしにくいエリアとして判断され、衰退の一途を辿っているように思えます。今回の計画は、そのような衰退しつつある古いまちに新しい光を当てることを一つの目標に取り組みました。

敷地環境リサーチ

敷地環境のリサーチ

まず各季節に敷地へ訪れデータを取り過去の記録をあたり、実際に風や水がどのような流れや状態にあるのかを確認していきました。まず広域の風の動きを調べていきました。気象庁の過去20年分のデータを確認すると、石鎚山系と瀬戸内海を結んだ軸に沿って風が吹いていることがわかりました。そして夏には昼は海側から夜は山側からと入れ替わる特徴をもっていました。
実際に夏に現地へ訪れて風向風速計で確認すると、昼は予想通りに海側から涼しい風が建物の隙間を縫うように吹き抜けてくることがわかりました。逆に夜は山側からの風は敷地周辺エリア全体であまり吹いていないことがわかりました。冬にも風の確認したところ、山側からの風を敷地でも確認できたので、密集地域であるため風がある程度強く吹くことが山側からの風が敷地へと流入する条件であるように思えました。
ハザードマップと地形図を確認すると、その敷地のあるエリアは周辺よりも少し高い位置にあり、海からの津波も、河からの洪水にも強い環境にあることがわかりました。古いまちの敷地選びの慎重さを改めて実感します。
各季節の地域の地下水温を現地で確認してみると、夏には外気温が30-32℃の日中に冷たいところで水温が14-18℃、その周囲の気温も27.5-28℃程度まで冷えていました。水盤の周囲の空気がゆっくりと動いているところでは特に冷えている結果となりました。実際にその場所に身をおくと、その涼しさを実感出来ました。冬には外気温2℃の早朝に、水温が7-12℃と夏よりは冷たくはなっていますが、空気よりも十分に温かい熱を持っていることがわかりました。

リサーチにもとづいた建築設計

過去データや現地調査から得られたデータを結果をもとに、設計をはじめていきます。クライアントはこれから高齢期を迎える終の棲家として、今回の住宅を依頼頂きました。そのため、まずバリアフリーの観点から平屋での計画とすることが決まりました。この終の棲家で、静かに過ごせる場所を求められました。そのため、敷地外周部には塀をまわして、内部の居住環境を確保しました。敷地は建物の密集地域にあり、東西に細長く、道路から奥側が少し広い不定形な形状をしています。塀と建物の距離が必ずしも十分に取れるとは限りませんでした。そのため塀の素材をポリカーボネイドという半透明の素材にすることで塀の圧迫感を軽減し、より広がりのある敷地環境を作り出しました。
そしてクライアントは地域の自然を存分に感じながら暮らせることを求められました。

風と水の間の家 House of wind and water in the old town コンセプトスケッチ
自然の流れと建物の関係のダイアグラム

風と建物の設計

リサーチから得られた風の方向は南北でしたが、敷地の形状は東西に細長い形状でした。そのため建物の幅を出来る限り小さくして、建物と敷地とのあいだの距離を確保して、敷地境界にある塀を越えてくる風を取り込めるように配慮しました。さらに建物の梁の高さを通常よりも高めに設定し、その下に垂れ壁を設けることで、より塀を越えてくる風を室内へと導くように工夫を凝らしています。

水と建物の設計

リサーチから敷地は周辺に比べて少し標高が高く津波や洪水の恐れが小さく、かつ、豊富で熱的に安定している地下水に恵まれた敷地であることがわかりました。まず、敷地境界の塀と建物のあいだに水盤を廻らせました。建物外周部を夏に冷たく、冬に温かい地下水の水盤で囲うことで、建物周囲を熱的に安定させることを考えました。津波や洪水の恐れが小さいことを確認した上で、建物で過ごすなかでより自然を感じられるように建物と水盤との距離を近づけるように工夫をしました。東西に細長く敷地境界と建物の距離が狭い環境では、建物と敷地境界のあいだの空気がゆっくりと動きます。そのため夏には水盤と空気はゆっくりと熱交換をして冷えていきます。その空気を塀越しの風が室内へと導きます。

風と水の間の家 House of wind and water in the old town 北側外観。建物越しに石鎚山系を望む。新建築住宅特集2020年3月号掲載
風と水の間の家/新建築住宅特集2020年3月号掲載 北側外観 建物越しに石鎚山系を望む

まとめ

クライアントは、これから高齢期を迎える終の棲家として、地域の自然を存分に感じながら、静かに過ごせる場所を求められました。敷地は古い建物が密集したまちの一角にあり、リサーチの結果、この先人たちが選んだ古いまちの立地は、治水に優れ、水に恵まれ、風が通り抜ける、自然の恵みに満ちた立地であることがわかりました。リサーチにもとづいて、この古いまちの自然の特質を活かすため、密集市街地化した建物と建物の隙間に、建物と自然の流れの形状を整え、静かに自然を感じる暮らしを設計しました。
地方の住まいの一つの選択肢として、古い住宅密集地に光を当てられれば幸いです。

続きは、お近くの書店、HPの作品ページをご覧ください。
studio colife3 風と水の間の家 house of wind and water in the old town(リンク)

風と水の間の家 新建築住宅特集 2020年3月号掲載” に対して1件のコメントがあります。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です