癌と進化/個体が壊れる事と環境が破壊される事

生物と遺伝子~世代を超えて情報を伝えること

生物が遺伝子と呼ばれる自らの設計図/情報を残し続ける
生物は自然選択という公正なルールのもとで、利己的に働くことで、全体の利益の最大化を助けている。その振る舞いを一つの社会としてとらえると、生物そして生態という組織を支えるための、その狡猾な戦略、エラーへのチェック機構、そして進化というギャンブルを生き抜く仕組みは、人間社会まで脈々と受け継がれているように感じる。遺伝子を通して、癌と進化は密接に絡み合う。

自然選択 遺伝子の選別

ダーウィンの自然選択には3つの条件がある。
1)      個体差はあるか
2)      個体差は遺伝性か
3)      個体差は適応度、すなわち次世代を残す能力に影響するか

自然選択は 適応に影響を与える遺伝性の個体の特徴 を定規に 選別を行う。
逆にいえば一世代限りの能力や弱点は遺伝されない、次世代を残す能力に影響しなければ弱点であっても、その存続は偶然に左右される。時にはその偶然を乗り越えるためにフリーライドする輩も現れる。しかし、そのフリーライドを支えられえるのも次世代を残す能力に影響しないまでである。

自然選択 と 環境

自然選択は 環境との相互作用を通じては生じない。 
遺伝子の産物は環境によって適応度は試されるが、環境による教えが遺伝子を直接的に変化させることはない。しかし環境は常に変化している、今日最適だった遺伝子も、明日にはその地位を失うかもしれない。もしかすると、昨日までビリだった遺伝子がトップに躍り出るかもしれない、環境の変化に対応するには多様な遺伝子をストックしておく方が有利である。セックス/有性生殖は、そのための一つ戦略として生まれた。優れた父親と普通の母親の間に生まれた子供には、それぞれの遺伝子が50%ずつ遺伝される。そうすることで多様性がストックされる。

セックス(性)の役割

セックス/有性生殖は同時に遺伝子の組み合わせ/相互作用の実験でもある。
遺伝子の表現/特徴を規定するのは単体の能力だけではない、むしろそれらを組み合わせ相互作用させるマネージメントの仕方が重要となる。ゆえにマネージャー遺伝子は非常に重要な役割を担う。例えばすべての動物の筋肉の発生を監督するのは、三つの全く同じマネージャー遺伝子であるがその結果は、マウスとハエのように全く異なる違いを生み出す。これは遺伝子の違いではなく、それらの相互作用の違いである。

余剰は創造の母

余剰は創造の母である。産業革命が土地を追われた余剰労働力によって培われたように、遺伝子社会のイノベーションもまた余剰/遺伝子の重複によってもたらされる。一つは古い機能を維持し、もう一つは、変異によって新たな機能を取り入れることができる。そして、その機能が有益なら、自然選択によって、そちらのコピーも保存される。同じ余剰でも細菌では異なる戦略となる。よそもののDNA断片を取り込むという危険を冒す。しかし細菌は数の力によってそれを無害化する。しかしごくまれに、取り込んだDNAから予想外のメリットがもたらされることもある。そうなった場合、その幸運な細菌の子孫が、個体群全体を乗っ取ることもある。しかし過剰な増殖は個体を死へと追いやる、癌がそうだ。

癌と進化 8つのホールマーク

癌は八つの簡単なステップを経て進化する

  1. 増殖シグナルを自給する(環境からの圧力とは別に独自にシグナルを発する)
  2. 増殖抑制シグナルを無視する
  3. 不死になる
  4. 細胞の自殺を避ける
  5. 免疫システムによる破壊を避ける
  6. 貪欲にエネルギーを消費する
  7. 新しい血管を引き寄せる
  8. 遠くの部位に侵入する

このようなホールマークが蓄積され、癌が完全に育つとすべてのホールマークが現れる。癌は自然選択のルールから外れた存在ではない。癌は自然選択のルールに則して数を増やす。逆に言えばルールに則して人体という環境を破壊することが可能な戦略が存在する、そしてそれは進化のメカニズムとも大きく関わりを持つ。

癌と進化 進化の五原則

  1. 種は変化する
  2. 種は相互につながっている(共通の祖先をもつ)
  3.  変化は斬新的に起きる(変化は蓄積されていく)
  4. 変化のメカニズムの多くは自然選択だ
  5. 進化的変化のすべてが自然選択に則っているわけではない。

以上これらは生物の基本的なルールと戦略 と想定されているものだ。物理学のエネルギー保存則のような存在だ。

生物は常に変化する環境に追従するように進化してきた。癌のように環境を無視した戦略は生物に破滅をもたらす。この考え方は人間社会にも適応できるだろう。癌の8つのホールマークはそのまま社会組織の8つのホールマークとして捉えることもできる。

生物は非常に歴史的だ、ゆえに癌のような破壊を伴う、しかし歴史的であるがゆえにこれだけの進化が累積されてきたのである。我々の共通の祖先である細菌やウィルスは我々とは全く異なる戦略で、この遺伝子社会という情報戦を生き抜いている。

我々と細菌・ウィルスを大きく隔てる点は数の力である。何億、何兆という数で生きる彼らと数百年前まで何百万という単位でしかなかった我々とでは数の力が大きく異なった。しかし産業化/情報化によって、我々もマスプロダクション、マスコラボレーションと数の力が意味を持ち始めている。数は必ずしも限界を意味しない、余剰はむしろ新たな創造のためのあしがかりだ、しかし新陳代謝を伴わない/制御機構が失われた数は癌のように限界となって目の前に現れるホールマークともなるだろう。

癌と進化/個体が壊れる事と環境が破壊される事” に対して1件のコメントがあります。

  1. 田中熊一 より:

     著名なジャーナリスト、立花 隆氏は前立腺癌を患い、癌のメカニズムを徹底的に研究したが、現在の人類誕生(進化を繰り返し)までに5億年がかかっており、人類誕生に併せて癌細胞が同居?しており、治癒できないと悟り、治療を諦めたと何かの本で拝見しました。その後、同氏が亡くなったいう報道は承知しておりませんが、その間、布施英利著(1960年群馬県生れ)「人体5億年の記憶」(海鳴社)を読む機会がありました。布施英利氏は東京芸術大学美術学部卒業後、東京大学医学部助手(現在の肩書は承知しておりません)、同氏と三木成夫(しげお、1925~1987東京大学医学部卒、東京医科歯科大学助教授を経て東京芸術大学保健センター長、東京芸術大学教授歴任)との関わりを上述「人体5億年の記憶」を読むと、医学系、芸術系(美術)の接点がよく理解できます。新型コロナウイルスで世界中がパニック状況ですが、癌もウイルスも有史以来存在しており?人類はそれらの撲滅に挑む歴史そのものですね。癌撲滅は近付いたとの全世界医学会の研究成果ですが、癌が人類の進化の過程であれば撲滅は不可能だという医学者も居るかも知れません。新型コロナウイルスが克服されたとしても人類の進化過程の一つの現象で新たなウイルスが出現すると思います。癌、ウイルス対決、人類の英知は永遠に続きそうです。新型コロナウイルスがクローズアップされる現在、そう思います。医学には無縁の一素人評論家?でした。ご容赦下さい。

    1. colife3 より:

      コメント頂きありがとうございます。
      「人体5億年の記憶」、大変興味深い書物のご紹介頂きありがとうございます。
      芸大から東大医学部という経歴はすごいですね。時間を見つけて読んでみたいと思います。
      私の方で今回の記事を書こうと思うきっかけとなった本は、

      下記のURLの遺伝子の社会 イタイ・ヤナイ (著) と 人体600万年史:科学が明かす進化・健康・疾病 ダニエル・E・ リーバーマン (著)
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      でした。前者は遺伝子というレベルから生命の動きを見ていくとどう見えるのか?という視点。
      後者は進化と人体と社会の関係から病と進化・人体の関係を読み解いていこうという視点の本になります。

      細胞にとっての 死 と 再生 による 環境の修復・持続 が 細胞の突然変異のエラーによる不死化によって、エラーが増殖するというかたちは、おっしゃる通り、ウィルスが突然変異によって、新しい脅威となるのと同じ 生物の進化の過程の負の面の表れだと言えると思います。

      老化と癌の関係は、コピーのコピーを繰り返すことによる劣化・変異が、想定される回数を超えるだけ人が生きることが可能になったがゆえに、生まれた、人体と社会とのあいだのずれの一つのあらわれだと思います。
      それを社会によって克服するのか?人体に合わせることで対応するのか?どちらを選ぶべきかは意見が分かれると思いますが、
      癌、ウィルス対決 は 私も永遠に続くのではないかと思っております。

      また宗教的な内容になってきてしまいあまり良くないとは思いますが、
      死 という要素の価値を、癌という内容から考えると、しっかりと価値づけてあげる必要が
      現代社会にはあるように感じます。
      生 という価値があまりに強く輝き過ぎていると、、そして、その究極の生が不死であるとすれば、それは癌と表裏一体な危険性をもつものであると、

      私も医学が専門ではない 一人の人間ですが、感じているところであります。

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