納屋 みずと木とひ|Barn/water, wood, light-fire


本計画は自然に寄り添い、また自然を手繰り寄せ、地域の自然循環の一部となることを目指した、大きな風洞の内部空間と焼杉の外観をもつ「風と火と農家住宅」の納屋の計画である。数年後の事業拡大の大型施設への設備投資までの過渡期の施設であり、機能移転後は改築が計画されている。若い新規就農者のこのような段階的な設備規模のステップアップと過渡期の計画は世代交代のなかで地域内で引き続き起こっていくものと考えられる。そのような納屋のモデル、そして高度成長期に建てられた農業倉庫群がつくる現在の農村風景の次のかたちの提案である。

■小さな農地の四国

四国は北海道、東北や関東のような東日本に比べて平野が狭く山地が多い。そのため土地集約が難しく小さな経営規模の農家によって多くが営農されている。近代農業は、農薬と化学肥料と農業機械が進み、機械に合わせて土地を集約して広い整形された田畑とすることで、工場のように農地から農作物を生産してきた。納屋の主役は様々な人力の木と鉄を組み合わせた道具から鉄の農業機械へと移り、その建物もまた規格化された鉄骨造、波板スレートの工場のような外観となり、工業化された慣行農業が農村風景の基盤となり日本の農業を支えている。しかし四国のような土地集約不適地では慣行農業による生産性・経済性は乏しく、農業従事者の高齢化、昨今の化学肥料の高騰によって離農はさらに加速している。若い新規農家さんたちの自然農法・有機農法がその隙間を埋めはじめ、農村風景の更新の時期が訪れている。

みずと木とひ の 循環のダイアグラム

■乾燥/水と火の関わり と 農業・林業

稲作においてエネルギーを消費しているのは、化学肥料の製造と稲の化石燃料による人工乾燥である。前者は有機肥料や自然農法などへのシフトによって縮小に向かっている一方で、後者は生産量と品質の安定化のため継続される。
これは林業の木材生産のエネルギー消費と同じ構造である。林業においてもエネルギーを一番消費しているのは人工乾燥の過程であり、生産量と品質の安定化を図っている。製材の過程で出る廃棄物・端材(背板・三日月・木くずなど)は最終的には燃料として利用することでバイオマスエネルギーの有効利用が行われている。しかし、この廃棄物もまた乾燥してなければ水分が多いだけ、エネルギーロスが大きくなるという課題を抱えている。

■乾燥とエネルギー/みずとひの関わり と 山の循環

この人工乾燥のためのエネルギーを新規就農者の段階的なステップアップという時間と組み合わせることで、自然エネルギーによる乾燥と木材循環によるこれからの田園風景のための納屋を目指した。
外壁は製材の端材である背板の断面を半分に割ることで潰れた扇形のような断面とし、山風の風上となる東面は長辺を水平として、風に対して滑らかな断面をもつ格子状の壁をつくり風を通しやすくしている。背板の幅の狭いものから広いものまでを4段階に分け、下から上へ狭いものから広いものへとリズミカルに逆三角形が積み上がるように配置する。そうすることで広い材が水切りとして幅の狭い材を雨から保護するように配慮している。
東面以外は長辺を垂直面とし、末口と元口で幅が異なる耳をカットし幅を一定として詰めて壁をつくって風雨を防いでいる。末口と元口で材の厚さも変わることを考慮し、雨掛かりとなる隅部に材の厚い元口側がくるようにしている。製材された丸太の径やそこから木材を取り出す木取りによって、背板の幅も厚みも変わってくる。幅の狭い弧の曲率の大きいものを下へ、幅の広い曲率の小さいものを上へ貼り分けることで、下部の雨掛かりの強い部分の厚みを大きくし耐候性を補っている。
外壁の背板、構造躯体も可能な限り生木を利用して、風が通る建築断面構成とすることで湿気を籠らせず木材をゆっくりと乾燥させている。外壁の背板の生木は将来の改築までの仮のものと考え、それまでの年月で風と太陽(ひ)によって水分を飛ばし乾燥させ、改築時には取外し内装材や燃料(ひ)としてカスケード利用へと回すことを計画している。
太陽光を浴びた茶色い木材は光分解作用によって有機物(リグニンやポリフェノール)が分解され、足元から風雨によって洗い流されて銀色化していく。乾燥を終えて木材は燃やされて、有機物は水と二酸化炭素となって水素H、酸素O、炭素Cが空へ還っていく。残った白い灰は、主にコンクリートの原料の一つである炭酸カルシウムである。この木材のカルシウムは山の岩石や火山灰由来のミネラルである。灰は畑に撒かれ、そこで育てられた苗木は山に植えられ、ミネラルは循環の輪のなかに再び還っていく。私たちは木材を通して炭素だけではなく重いミネラルも運び、地球の循環の速度を速めている。

山積みにされた背板 大きいものは造作材をさらに取り、小さいものは燃料として売られていく
大きさを選り分けた背板 を 半分に割る
断面ダイアグラム 風を通したい東面は背板を寝かして、雨を防ぎたいその他の面は背板を立てて、それぞれの機能に応じた扱いをしている。
南外観 背板を立てた外壁 太陽が背板を乾燥させていく
東外観 格子ごしに奥が透けて見える 背板の不揃いな形状が透け感にリズムを与える 風が木を乾燥させていく

■配置・ボリューム計画 重信川流域の風と田んぼの泥

重信川流域は海と山そして太陽との関係によって冬以外の季節は東西に風が流れる。太陽の力によって動くこと卓越風もまた、木材から水分を奪い乾燥させる役割を果たす。
また夏は母屋へ海陸風を通すために東西方向に開いて風を通す必要がある、その一方で、冬は母屋の東側に納屋が出来ることで北西寄りの季節風が東西に長い母屋に当たり東へスライドしていくるため、農業倉庫が風をあまり受けることは屋外の農作業スペースに冬の風を呼び込むことになるため、好ましくない。そのため屋根勾配は極力緩くし、建物高さを抑えることで冬の北西からの風を受ける面積を最小限にし機械洗浄スペースへの強い風の流れを抑えて、夏には夜風が母屋へ流れるのを極力妨げないようにボリューム計画・配置計画を配慮している。抑えられた屋根に降った雨は貯水タンクへと貯められて、敷地の北側にある家庭菜園の散水に利用される。
田んぼ仕事は泥仕事である。年間で農業機械にこびりつく土の量はかなりの量になる。この土は豊富な養分を含み、畑の土として利用できる。機械にこびりついた泥を水洗いするスペース、その洗い流した土を貯める場所を上の建築地、下の家庭菜園の農地という敷地の上下の構成を利用した。落された土は下の畑へ落して使うことで養分の豊富な落された泥は、畑土として再び農作物を養う。

photo miyahata shuhei 高さを低く抑えられた納屋 主屋の格子へ夏の風を通す
photo miyahata shuhei 低く抑えられた高さは、冬の主屋の屋根に当たった北風を往なす役割も果たす
西外観 東からの朝日が差し込む
内部から農作業スペース、主屋をみる 

■小さな農地と小さな農業

平野が狭く小さな農地に分割される四国では、大規模工業化の農業は適さない。限りある資源を無駄にせず最大限に活かした循環型の農業のあり方が求められる。そのためには農地だけを見ていれば良いものではない、山や海や社会との関わりもまた重要となる。現代農業は季節のリズムと社会のリズムという異なるリズムをバランスさせることが求められる。この建築がそのバランスの一助となっているのであれば幸いである。

photo miyahata shuhei
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建築データ

所在地:愛媛県松山市
用途:納屋
構造:木造
規模:1階建て
建築面積:49.68m2
延床面積:49.68m2
設計期間:2022/05~2022/12
工事期間:2022/12~2023/04
構造設計:三野裕太
施工者:土居建築株式会社
背板製材:有限会社長田相互製材所
クライアント:うかのわ https://ukanowa.green/

写真 
studio colife3
瀬戸内編集デザイン研究所 / SETOHEN 宮畑周平 https://www.setohen.com/

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