うごく木のわ|WA(わ) of moving wood

link of moving wood, cycle of moving wood, relationship of moving wood. (WA(わ) : 環、輪、和)

うごく木のわ 街へ木箱がゆく
街と山を軽トラックに載せた木箱がつなぐ
うごく木のわ 紅葉の山でのワークショップの様子
photo studio colife3 紅葉の山でのワークショップの様子


クライアントは愛媛県内子町できらない林業/森の入り口づくりをコンセプトに地域の林業の活性化を目指す地元企業。以下の用途に対応する移動ワークスペースが求められた。

1.山の未利用資源・時代遅れとなった木材資源への新しい価値づけをした商品をPRする展示・ワークショップスペース。
2.林業を通じたプログラミング教育・脱炭素社会への再生エネルギー教育を行う教室。

彼らが取り上げる未利用資源は伐採から製材まで林業経営のなかで生まれる様々な木材資源にはじまり、樹種は針葉樹に限らず広葉樹や低木にも及び、フレグランスをはじめとした建材以外の活用も含んだ山の資源への新しい視点が特徴的である。そこから見えてくるのは、時代と共に変わってきた社会・文化と山との付き合い方の変化であり、その姿は脱炭素や再生エネルギー・自然循環の志向とも通じる。

■軽トラと里山
まず移動させるためのエンジンとしては軽トラックの利用をクライアントから提案を受けた。理由の一つは、ゆくゆくは地域の林家さんや農家さん、アウトドアに興味がある一般層へのモバイル店舗、モバイルハウスとしての展開を見据えるためである。里山・山村で日常的に使われる軽トラックを使うことは、地域に新たな要素を差し込むことで里山の機能をアップデートすることができるという利点を持っている。
軽トラックの積載物には地上高さ2.5m、幅を軽自動車の最大幅(1.48m)、積載荷重350㎏という制限がある。そのため基本躯体は町内で採れる比重強度の高いスギの流通規格材を骨格として構造用合板を貼ったセミモノコック構造とし、短辺をL字の合板を挟み込み剛接合することで軽量化と剛性のバランスを取り立面開口部のカスタム性を高めた木造の木箱としている。
積載されるボックスは軽トラックと簡易に脱着可能にし、一台の軽トラックで里山で農作業・山作業とまちへの活動の2WAYを採用可能な形式としている。ボックスは積み込み時は軽トラックのあおり板と荷台のあいだのスキマを利用し、金物で結合することで女性でも大がかりなボルト作業などなしで脱着可能としている。積み込み、積み下ろしは足場用単管を利用することでコストを下げ、里山・山村で身近に手に入りやすく日常的に利用されている材料としている。
里山の脚である軽トラックが、山の木箱を載せて、まちへと向かう。

■心材と樹木
多種多様な樹種や部位に及ぶ木材を扱う彼らの活動に対して、軸となるものはなにか?と考えたときに、「心材」というキーワードが調査のなかで浮かんできた。心材は建材で辺材部分である白太と対になる赤身部分を指す幹の中心側の部分である。樹木の幹は外周部の形成層と呼ばれる部分で細胞分裂が行われ内外へと成長していく。生まれた細胞からは内側へは先ず辺材が生成されて、年月を経ると辺材と心材の境界部分にある移行材と呼ばれる部分でその化学的性質を変化させて心材へと変化していく。樹種間の木材の違いは辺材部分では小さく、心材部分で大きい。フレグランスの元となる香りや木材の防腐機能をはじめとした各樹種の特性を示すのは、この心材部分である。樹木が同じ植物である草本類と違い大きく成長し続けられるのも、心材のおかげである。辺材が心材となることで、生命活動を止め、身体を支える芯としての役割を果たすことで、身体を大きくしても生命活動を維持でき、そしてその重要な身体の芯を失わないために防腐機能が高められている。樹木の炭素固定で重要な役割を果たしているのは、緑の葉の光合成だけではない、この赤い心材も大事な役目を果たしている。
和室が当たり前だった時代には座敷の天井にスギの赤身無節材を貼ることが多かったが、現在ではそういった利用も廃れて一般材に混ざっていることが多い。林家さんたちが丁寧に育ててきた大径材のなかには、赤身無節部分が増えている一方、こういった質の高い赤身材をどのように価値づけするかが、林業経営上の一つの課題となっている。武田林業ではスギの赤身無節材を地域の製材所で選り分ける仕組みをつくり、商品化することで改めて人の目に触れる機会を作ろうとしている。武田林業にとって、ヒノキもまた重要な素材の一つである。創業者の祖父は四面無節のヒノキの柱材を搬出する林業家であり、その意志を引き継いで会社を興し、ヒノキ成分を利用したフレグランスや消臭スプレーの商品開発をしている。心材を表現する主要な部分を、このスギの赤身無節材で、その赤を強調するように外周部に対比させるようにヒノキを使うことが決まった。
内子小田地域は古くは天然の広葉樹林を中心とした林業地であった。今でもこの広葉樹林は小田深山と呼ばれる奥山へいくと綺麗な紅葉の名所として残っている。広葉樹の木材もまたスギ赤身無節のように行き場を失って地域に滞留している木材の一つである。スギ赤身材と色の近いサクラ材を枠に、バッテリーボックスの収納扉兼ワークショップ用テーブルの天板をケヤキで、そして木箱の外周部のあおり板との接触部にバンパーとしてクリ材を使用し、機能によって使い分け、樹種の違いを体感できるように配慮している。

■一畳半の小空間に満ちる香りと景色
木箱の内部は幅約1.1m×奥行約1.7m×天高約1.5mの小さな空間である。内装はスギ赤身無節材を床壁面に使い、間近にせまるスギの板目の表情や香りを体感する場としている。天井にはヒノキの無節材はラス板用の規格材を天井の小幅材として加工したものである。左官・湿式施工の減少、合板の普及などで使用が減っている規格品の武田林業による新たな利用法の提案商品である。ヒノキ白太の白さがスギ赤身の赤さを際立たせる。
上部の明かり取りには小田の山に自生する低木のクロモジを連子窓風に使用している。クロモジはその強い香りから古くは神事で使われていた。時代が下り茶道では楊枝や生け垣などで使われている。武田林業は現在では未利用資源となったこの低木からフレグランスをつくることで、林家さんたちの枝打ちなどの日々の山の手入れのなかに新しいメニューを提供し、山と街とのつながりを強めている。

■自然循環 再生エネルギー教育 ワークショップ
内子町は脱炭素戦略を策定しバイオマス発電をはじめとして再生エネルギーの活用に力を入れている。この動く木箱は再生エネルギー普及のための啓蒙活動にも使われる。屋根には太陽光パネルを搭載して移動時も発電を行い、運転席上部に設けたバッテリーボックス内に蓄電していく。貯えられたエネルギーは再生エネルギーワークショップでの照明やドローンやロボットの動力として利用され、再生エネルギーと生活、林業との関係を学ぶことができる。
ワークショップ、PR活動時には木箱本体に幌を取り付け、周囲に軒下空間を拡張し、持ち込んだ組立て式の家具を天幕の下で展開可能としている。幌は捻り金物で簡易に脱着可能とし、組立て式のテーブルの天板をバッテリーボックスの扉と兼用とするなど、省スペース化・設営の時間短縮へ配慮している。
自然循環のなかでの資源の作り方と同時に、資源の使い方も再生エネルギー教育においては重要である。木材はその点で身近でリアリティをもった教材となる。樹木は山でその生命を終えた後、分解するまでに数十年かかると言われている。私たちはそれ以上にゆっくりと木材を使っていかなければならない。木箱では片面の鎧貼りとすることで風雨への耐候性を高め、仕様の特徴を比較できるようにしている。鎧貼りは内子小田地域の蔵の外壁に使われる知恵でもある。

日本の林業は江戸時代以来、植林を行い、世界的に見ても優れて持続可能な山との付き合い方を模索し続けてきた。しかし高度成長期以後は木材資源を外材に依存し、林業に限らないことであるが、生産地/山 と消費地/まち のつながりは薄れてしまった。その一方で時代・環境の変化とともに、山がまちに求めることも、まちが山に求められる機能も変わってきている。改めて相互理解を深めるときにきている、山で待っているだけではモノゴトは動き出さない。里山の脚である軽トラックが、山の木箱を載せて、まちへと向かう。「うごく木のわ」をまわすために。

photo studio colife3 室内の赤勝ちスギ板目の木壁 上部の明かり取りの連子格子はクロモジ
外壁のヒノキ 内部の赤勝ちスギとは異なる人肌のような表情
武田林業が製作している山林のめぐみを使ったフレグランスづくり
photo:takeda foresty クロモジのフレグランス製作工程(クロモジの乾燥、クロモジの枝(蒸溜前)、クロモジの蒸留)
クロモジの連子格子

 

 

photo studio colife3
photo studio colife3
photo studio colife3 日が沈み、蓄電池に貯えられた電気によって、灯がともる

 

photo studio colife3
photo studio colife3
photo studio colife3

建築データ

所在地:愛媛県喜多郡内子町
用途:移動ワークステーション
構造:木造
規模:1階建て
建築面積:2.02m2
延床面積:2.02m2
設計期間:2023/03~2023/07
工事期間:2023/07~2023/09
構造設計:三野裕太
施工者:武田林業、後藤建設
クライアント:武田林業 https://4est.co.jp/

写真 
瀬戸内編集デザイン研究所 / SETOHEN 宮畑周平 https://www.setohen.com/
studio colife3

掲載 
wallpaper* 2024年4月号 、 web 掲載ページ(1996年創刊 イギリスのデザイン雑誌) コラム

うごく木のわ|WA(わ) of moving wood” に対して1件のコメントがあります。

コメントは受け付けていません。