
結ばれた点と点の時間が同期し、活動が共鳴し生まれる文化と技術の複合体
地域を超えて共有された活動の時間、世界時間のイメージはこのようなものだと思われる。
しかしこの世界時間は例えば一つの国のなかでもチーズのように無数の穴や濃淡があって、共有されているエリアと共有されていないエリアが生じているような斑なものであり、結びつき共有されているのは基本的に各時代、各地域の上部構造/先進地域の部分である。
それが国や地域を超えて結びつくとその差はより激しくなる。
そのような異なる次元もまた階層化されて、互いに結びつきあい共存し、作用し合っていたことは第二部で見てきたところであり、むしろ上部構造を創出したのはこの下部構造からの押し上げであったというのがブローデルの見方だと思われる。
そして遠距離交易が盛んになるにつれて、この諸地域の上に国民というレイヤーが後に上から被さっていくことを国民市場のところで見ていくことになる。
第三部の世界時間は、そのような世界時間が共有される経済圏である世界=経済とともに、その特徴を確かめていき、第二章からはヴェネツィア、アンヴェルス、ジェノバ、アムステルダム、ロンドンと各時代の世界=経済がどのように発達してきたか?どのような特徴をもっていたのかを巡っていく。
それは「農業経済から脱出した自由で軽々しい都市国家」と「国家形成のために厖大な作業を抱えて農業経済から脱出できず閉鎖的で重々しい領域国家」という異なる国・地域像の比較(例えばイギリスに対してのフランス)という背景を持ちながら進められる。
そして空間の制圧。街道や航路、そして鉄道が通り、隊商宿やオアシス、寄港地が生まれ、広い面のなかに点と線が引かれていく。
結ばれた点と点のあいだの電位差によって経済の流れが動き出し、構造に持続性が与えられていく、金や力が蓄積されていく。そして点と線を流れる経済の流れの摩擦がさまざまな技術によって一つずつ取り除かれていき、構造が強化されていく。
ルネサンスのヴェネチア から 大航海時代のアムステルダムまで
ヴェネツィアからアムステルダムまでの発展は<南>の商業の発展とともにあり、かつ、十字軍・レヴァント貿易とヴェネツィア、ポルトガルの航路開発・ドイツ フッガー家/ヨーロッパの銅とアンヴェルス、スペイン/アメリカ大陸の銀とジェノバといった各時代の政治力や資源産出地との関係にもとづく遠方貿易の商業活動が軸に進められる。
アムステルダムはこれまでの都市国家から近代国家・国民経済の時代の境界に位置し、信用、商品を生産する工業の重要性が増していく。
それがもたらす人工的な環境は、干拓された土地・多くの外国人出身者(1/3とも言われる)とオランダがもつそもそもの自然特性だったのかもしれない。
工業の重要性が増すほど分業は促進され、オランダ内の都市間の役割分担が進む。通商を重要視するアムステルダムは商品を保管する倉庫が重要な位置を占めた。
そしてその流通を滞らせないための信用貸しによる決済がより発達した。そしてヴェネツィアがフィレンツェやイスラムなどの他人の技術を束ねて発展を遂げたように、アムステルダムもまたスペインやポルトガルなどの他人が開拓したアジア貿易を強奪していくことで発展していった。
この時代の東南アジアの香辛料は東西貿易の(特にインドへの)重要な鍵であった。しかしこの強硬姿勢はオランダ/アムステルダムのアメリカ大陸での失敗へとつながっていった。
国民経済の登場とロンドン
そしてロンドンとともに、アムステルダムが準備した経済技術<人工的な富>を駆使した本格的な近代経済が幕開けしていく。国民経済の登場は、それまでの広範囲に広がり閉鎖的で重々しかった辺境部や領域国家が都市に開かれ、より緊密に連動していく過程を描く。
文化と技術の違いについて
経済の本ではなく、歴史の本であるがゆえに、経済活動がそのまわりの様々な社会生活に支えられていることを第一部から注意深く描きだしている。特に国民経済の形成の過程は、先行した政治・文化の領域の存在の重要性を指摘している。消費とは文化的な行為であることを改めて感じる。
また文化が持っている、経済、政治、社会にはない特徴として、その持続性を挙げる点も面白い。流行のような移ろいやすいものもあるが(それに敏感に反応する経済は当然移ろいやすい)、風習や慣習などはやすやすとは変化していかないということである。
文化とは、精神でもあるし、ことばのあらゆる意味での生活様式でもあり、文学・芸術・イデオロギー・自覚の持ちようなどでもある。文化は、物質的・精神的な無数の財貨でできている。[…]技術はおそらく文明の身体にすぎず、その魂ではない。
p.73-77
こうした考え方は現代の文化心理学の考え方とも通じるところがあり興味深い。
風習や慣習の主体がいなくなり、辺境で文化が失われていっている現代社会とは何なのか?改めて考えてみたいと感じた。

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