交換のはたらきⅠ

新しいものと古いものが併存する階層的な発展
第二部「交換のはたらき」では第一部「日常の構造」で描かれた物質文明、経済生活の基礎から供給される資源の「交換」に焦点をあわせて議論が展開していき、交換が行われる市・常設市場、市場経済そして資本主義と交換がどのように歴史のなかに現れて、そして発展してきたかを見ていく。
市の発展は直線的な歴史ではなく、新しいものも古いものも併存する階層的な発展として生じる。
それは無数の小さな点というかたちで自給自足的な物質生活と経済生活の接触を通してはじまり、その点が寄り集まったり、散り散りになったりしながら、交換を継続する術(為替手形など)を発展させながら、市場という固定化された中心/ハブへと成長していく。
それは自己組織化して巨大な流れとなる大河のような、階層化され組織された流れ。そういう意味で経済活動とは、大きな流れだけでも、小さい流れだけでも、その脈動は維持することができない。
太くて速く輸送される流れの階層 と 細くてゆっくり交換される流れの階層
熱力学の分野での研究から「モノゴトの流れ」は階層化された構造をもつことによって、最適化されて効率的にモノゴトを運ぶことができるようになるらしい、そこには太くて早い流れ と 細くて遅い流れ という階層化が生じる。
それは本書での国際的空間と地方的空間という二つの異なる空間に相当するように思えるし、訳者あとがきでの
「人が集まることで権力が生み出されないような社会は存在しません。社会は自動的にその階層制/ヒエラルキーつまりピラミッドを作り出すのです。それを壊そうとすることはおそらく時間の無駄でしょう」
というブローデルの言葉にも通じるように思える。
それはロンドンの例で示されるように、地方が都市に吸収されて専門化し、商業へ参加しはじめ、市場が大きくなるにつれて対面の関係の限界を迎え、仲介者のチェーンが形成されて階層化していく過程である。
別のところではトスカナの事例を通して、作物の専門化が生じるたびに農業は資本主義的[企業]への道に踏み込む傾向を持つ、としている。そしてそれは農民がもつ自給自足的な物質文明の綻びを生み、農村のバランスを崩し、大地主・大規模経営者の生産の独占、分配の独占、国際的システムへの奉仕へと結びついていく。
自然発生的な文化と人為的な社会技術の複合体
しかし本当の意味での自己組織化のように物理法則のバランスで自発的にすべての階層化された構造のデザインが発展していくものではなく、意識的なデザイン、社会的なものも大事な要素となり、社会的なものと自然発生的なものが混ざりあったものとなることを、本書で示される様々な歴史的事例は示している。
例えば高利貸しを禁じたキリスト教世界におけるユダヤ人のような宗教的背景、近世アジアにおけるヨーロッパ人の現地商人からの信頼を得るための様々な努力、十八世紀十九世紀のインド、中国における内部からの崩壊とヨーロッパの台頭、西欧における貴族とブルジョアジーという階級の違い、鉱山技術、航海技術、造船技術といったさまざまな技術の発達
鉱山の様子が記述されるのは、それが工業都市の原初的な姿だと考えているからだろうか?そしてそこから産出された貴金属が当時のヨーロッパが国際経済を回す主役の一つだったからだろうか。
同じような役割として精糖産業もまた記述される。両者で見られる生産分野の地位の低さと、ブルートンが定義する資本主義の「収入の源である資本が、一般に、自身の労働によってそれを活用する人々に属していない経済・社会体制」という特徴はあらゆる産業へと引き継がれているように思える。
流動資本と固定資本の均衡
本書で二度引用される マルクス=エンゲルスの言葉
「社会は消費をやめることができないように、生産をやめることもできない」
資本論第一巻第七編第二十一章
生産は経済学の世界では、労働者や穀物、燃料といった回転速度の速い「流動資本」と、建物などの不動産や道具、機械設備といった回転速度の遅い「固定資本」という二つの異なる速度で消費される資本から行われる。
近代化の過程とは、流動資本が生産の中心的存在だった生産構造から、固定資本が生産の中心となる生産構造へと変化していく過程だったと捉えられる。
機械に従属する労働者のイメージがまさにそれだろうし、その固定資本を回収するために新しい需要=流行を無から創り出すファッション産業のような形態もまた機械生産によって可能となった変化であった。
そして増大する固定資本の力と地球の流動資本を(人/労働力も含め)どのようにバランスを取るか?ということが現代的な課題となっていく。

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