周辺環境に流れている自然の 風 を建築に取り込むための工夫
風がどのように生まれ海や山から届いているかを理解できたところで、今度はその風をどのように建築の内部へと取り込むか?というところに話を進めたいと思います。
先ほど空気の膨張と収縮によって空気が動き風が生まれる話をしましたが、これは言い換えると空気の圧力の違い=気圧の違いによって圧力/気圧が高い方から低い方へ、水が高い方から低い方へ流れるように、動いていくことを指しています。
建物に風が当たると、受けた正面では空気がどんどん押されて気圧が高くなり、逆に背面では空気が回り込みにくいため、気圧が低くなります。風が吹いている時に窓を開けたときに、空気が流れるのはこの二つの気圧の差を利用して空気を建物内に流しているのです。
水が落差が高ければ高いほど勢いよく流れるように、風もこの気圧差が大きければ大きいほど勢いよく流れます。こうして勢いを得た空気の流れが室内の壁や家具などに当たって、勢いを消耗しながら、室内から室外へと出て行くのが、建築の通風の基本的な考え方になります。
自然の 風 の流れに合わせて、建築内にも 風の道 をつくる
一番シンプルな方法は、周辺環境の風の流れに合わせて風の道を建物内にもつくる方法です。
外壁で受けた風を窓から取り入れ、出来るだけ室内で勢いを消耗しないように出口と入口をシンプルに最短距離で流れていくように風の道を整えます。
実際に建築を考えるときには、風のことだけでなく、日射のことや周囲からの視線とプライバシーの関係や、室内での動線や行動など、様々なことを同時に考慮に入れなくてはいけません。
それらをまとめるのが建築家の腕の見せ所になるわけですが、建築主の方でもそれらの優先順位をはっきりさせることが、望んだ暮らしや環境を実現することにつながります。
松山の江戸時代の古民家も持っていた 風の道
下の写真と図面はエアコンも扇風機もない江戸時代の松山市の道後平野の民家様子です。
西側に庭を持ち東西に続き間が並ぶ構成を持っています。
庭が西側にあるのは道後平野は西に海があるため、海風を取り入れつつ夏の西日を防ぐ役割を与えるためでしょうか。仏間や納戸などを固めてあるため襖を開け放せば続き間に広い風の通りの道が生まれます。
西に飛び出している便所も風の取り込みや西日のカットに効果を発揮しています(代わりに夏の便所は西日に晒されて暑そうですが)。



この民家が現役だった時のように周辺が田んぼで広い敷地があって庭が十分に取れるようであれば、障子も襖も開けっ放した生活ができると思いますが、
現代の生活では、すぐ近くに住宅が建っていたり目の前の道路の車や人の通りがあったり、プライバシーを考えると、そのままこれを真似ることは難しいです。
これは海外のガラスの大開口をもつモダニズム建築が広い敷地にぽつっと立っていてプライバシーが確保されていてるのを、日本にかたちだけ持ち込もうとして困難に直面するケースに似ています。
格子と続き間を組み合わせることで、風 の抜け と プライバシー を両立する
こうしたときに手っ取り早い解決策の一つが格子を使うことです。古くから町家建築などで都市生活での通風とプライバシーの両立のために使われてきました。
格子で開口面積が減ってしまいますが、代わりにプライバシーを確保することができ、そよ風のような柔らかい風を通します。風と火と農家住宅ではこの「続き間」と「格子」を組み合わせ、現代的に解釈し直すことでその場所に合った風の道を建築内にもつ暮らしを実現しています。
妻面は桁側よりも風の影響で雨が壁面に当たりやすいので(雨掛かりの傾向の違いについては知りたい方はこちらを)、格子を設けることは雨の日の換気の際にも有効です。





自然の風 を壁などを立てて取り込むウィンドキャッチャー
風を取り入れる窓の配置を考える際に、周辺環境によっては風を正面から受けることが難しい場合があります。そうした場合に窓にダイレクトに風が当たるようにするのではなく、まず壁でしっかりと風を受けて窓の方へ導くことで、室内へ取り込み、通風を確保する方法があります。
ウィンドキャッチャー/wind catcherというわかりやすい英語もあり、こうした考え方は世界共通で存在し、さまざまなかたちの風を取り込む工夫が存在します。
よく建築の授業などでヴァナキュラー建築として取り上げられるのがイランのヤズドやパキスタンのハイデラバードのウィンドタワーやでしょうか。
蚕を飼っていた日本の合掌造りの民家も雪に備えるだけでなく、地域の風向きに即した配置から立面の風を導く屋根形状が特徴的です。最近では既製品のサッシでもウィンドキャッチを特徴とした窓が売られています。
ウィンキャッチャーを検討する上で重要となるのが、その地域・その場所の風がある一定の方向から来る確率が高いのか?それとも様々な方向から来る可能性が高いのか?という地域の風の特性とそのウィンドキャッチャーの配置の仕方の相性の問題を解決してあげる必要があります。
ウィンドキャッチャーとはある方向からくる風を捕まえる代わりに、他の方向から来る風を遮る効果をもたらします。
それは壁が光を導いたり遮ったりするのと同じで、一日のなかで、季節のなかで、風向きがどのように変化をして、どの季節の、どの時間の風を捕まえたいのか?という明確なイメージとデータがあった上で、どのようなウィンキャッチャーが好ましいのか?
もしくはウィンキャッチャーを設けるのが好ましいのか?ということが決まってきます。
たまにウィンキャッチャーを付ければ通常よりもたくさん風を取り入れられますと何も考えずに説明する人がいるので注意が必要です。



平屋の住宅のプライバシーを確保するための塀とウィンドキャッチャー
平屋の建築の場合、複数階の建築に比べて風や光の取り入れとプライバシーの両立する方法に苦労することが多いのではないかと思います。
上層階は地上階に比べて周囲に空隙が確保できるケースも多く、地上からのプライバシーも確保しやすいため、安心して開口部を大きく設けることができますが、
地上階の場合は周囲の建物や道路との関係の配慮や空隙が確保出来た場合にもプライバシーのための塀などがあったりして、風を積極的に取り入れることが難しいです。
「風と水の間の家」はそうした平屋の住宅でプライバシーをしっかりと確保しながら、その地域の風をどのように取り入れるかに取り組んだプロジェクトです。
建物が密集する東西に細長く奥が広がっている変わったかたちの敷地に、南北軸の海陸風が吹きます。建築主様のご要望でプライバシー確保のための身長よりも高い塀で敷地境界を囲って欲しいという設計条件がありました。
狭い敷地の平屋の建築で身長よりも高い塀があると、どうしても塀によって風が遮られてしまいやすいです。
そこで考えたのが塀よりも高い位置に垂れ壁の大きな木構造(トラス梁)を設けて、それにウィンキャッチャーの役目を果たさせるということでした。
この垂れ壁はガラスとポリカで挟むことで採光を取れる明り取りの役目も果たしています。塀を超えてきた風が垂れ壁に当たり、その周囲の窓へと吸い込まれていきます。こうすることで、窓を開け放して心地よい風を取り入れながらもプライバシーを確保した建築が生まれました。
このプロジェクトの地域では湧水が有名であり、建築主様のご希望もあり、敷地に残っていた古い井戸を活用し、塀と建築の間に水盤を巡らせています。塀越しの風はこの水盤で冷えた空気を室内に押し込む役目も果たしています。



換気重視で密集地でもプライバシーと採光を確保する光井戸
住宅地のなかで庭も確保することがほとんど難しいという条件になると積極的に風を取り入れることを考えるよりも、ゆっくりと換気しつづけてくれる方法を考えた方が良い場合もあります。
現在では住宅では24時間換気が義務付けられていますので、必要最小限の換気は換気扇に任せて、もう少し強めの空気が動いているかな、くらいの動きが欲しいときの選択肢になります。
こうした空気の動きを実現する方法として光井戸/light wellと呼ばれる吹抜け空間を使う手法があります。
日本でも住宅が密集する町家建築で複数の小さな坪庭や中庭が設けられることがありますが、これも光井戸と同じ効果を生み出し緩やかな空気の動きを作り出します。
住宅密集地の複数の光井戸に囲まれた穏やかな空間
次のプロジェクトは松山の住宅密集地において、光井戸や町家の坪庭/中庭の考え方取り入れたものになります。
敷地は古くからの街区のなかにあったため既存の建物は車を駐車することを考慮していないつくりになっていました。代わりに南面に広い庭があったのですが、駐車スペースを現代の地方都市の生活で無視することは出来ません。
また建築主様は直達光を建物に届かなくても構わないというご意向をお持ちでしたので、建物全体を南側に寄せて駐車スペースを確保しつつ、敷地調査から判明していた周辺環境の東西軸の風の流れを進入用の道路と隣地の庭づたいで取り入れるように配置を整えています。
こうして風との配置関係を整えた上で、南に二つ、北に一つ光井戸を吹抜けのリビングダイニングの周囲に設えることで、風と光を通して季節と時間の変化を感じられる建築としました。




このように敷地環境や住まう人の暮らし方によって、同じ地域の自然の風を相手にしても色んな選択肢があります。自分に合った風や地域との向き合い方へと導いてくれる設計者を選んで、良い建築を作っていってください。






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