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熱を逃さない高気密高断熱で窓を開ける 風通し は効果があるのか?

風通しを考えるには、周囲に開く必要があるため、周辺条件に合わせた個別解になりやすい

気密断熱 が良くて、 風通し が良い家に住みたい、ということを設計をやっているなかでご要望を受けることがあります。快適な環境というイメージでは近しい関係にあるように思える「断熱」「風通し」、実は大きく方向性の異なるものになります。

断熱気密を高めてエアコンを掛ける方法は、周辺環境を設計上考慮する必要性が少ないため、一般解/標準化しやすい。
断熱を考える場合の建物の設計の方向性
風通しを考えるには、周囲に開く必要があるため、周辺条件に合わせた個別解になりやすい
風通しの考える場合の建物の設計の方向性

昔の日本の家についての言葉で「家のつくりようは夏をもって旨とすべし(徒然草、吉田兼好、鎌倉-室町時代)」というものがあるため、なんとなく風通しの良い家が良いというイメージがある一方で、

昨今の高断熱・高気密政策によって断熱が良い家が良いというイメージが重なって、「断熱が良くて、風通しが良い家」というイメージが生まれてくるのだと思います。

しかしせっかく高気密高断熱にして夏にエアコンで冷やした空気も、風が通ると逃がしてしまいます。

結論を先に言うと、高気密高断熱と風通しを組み合わせることは効果があります。但し、敷地環境に配慮した適切な窓や部屋の配置を行い、効果的なタイミングで風通しを行う場合に限る、という条件付きになると考えるべきです。

とにかく暑くも寒くもない環境に常時居たいという考えであれば、博物館・美術館や図書館の収蔵庫のように電気代は掛かりますが開口部を最小限にして高断熱高気密とし、外部環境を切り離して、機械にすべて任せて空調を付け続けるのがベストです。

そうではなく、外との関係を保ちたい、という思いがあるのであれば、「断熱」と「風通し」のそれぞれの特徴を理解することが大切です。

高気密高断熱の熱を逃しにくい性質冬の低温とは相性が良いですが最近の温暖化の影響による夏の高温と相性が良くない部分もあります。家の中に溜まった熱を外へ逃がしにくい分、通常よりも換気や冷房などで意識的に取り除く必要があります。建物の形状によっては高気密高断熱の方が夏の冷房代が上がる、熱中症のリスクが高まるというケースも報告されています(PMC)。

こうしたときも、風通しを考えられている高気密高断熱の建物になっていれば、年間のエアコンの消費エネルギーを抑えることや非冷房下での熱中症リスクの軽減にも可能になります。

室温を一定にしようとする断熱志向 と 外気温に合わせようとする 風通し 志向

断熱と風通しの違いは、ヒトをはじめとした哺乳類によくみられる恒温動物とヘビなどの爬虫類にみられる変温動物の環境に対しての戦略上の違いのように捉えると、その違いがわかりやすいのではないかと思います。

室温を一定に保つことを目標とする高気密高断熱

断熱による建築環境のコントロールは、恒温動物のように、動物においては体温/建築においては室温を一定に保つことを目標にしています。

そのため外気温の変化に対して恒温動物は、自ら熱を作り出し、断熱気密を高めその熱の蓄積(脂肪を蓄えたり、毛穴や血管を収縮させて熱を逃さない)や放出(汗をかいて熱を逃す)することで、体温/室温を維持しています。断熱の良い家では、同じように断熱・気密で熱を蓄積できるようにし、エアコンなどで暖房(熱を作り出し)たり、冷房(熱を放出)したりすることで、室温を一定に保ちます。

環境への同化を目指す 風通し

それに対して風通しによる建築環境のコントロールは、変温動物のように、周辺環境へ熱的に介入しつつ同化することを目標としています。

そのため外気温の変化に対して恒温動物のように自らが熱をつくりだすのではなく周囲の熱源を利用してその目標を達成します。例えば、運動して発熱したり、日向ぼっこをして熱を吸収したり、日陰でじっとして代謝を抑えて熱を放出して暑さが過ぎるのを待ったりします。

それでも足りないときは、涼しい場所へ移動したり、冬眠したりします。風通しの良い家も同じように、日陰をつくりだしながら、内部に溜まる熱を積極的に風を取り入れることで排出して、熱的にオーバーヒートしないようにしていきます。それでも足りないときは、変温動物のように活動を抑えて、暑い時間が過ぎるのを待ちます。

恒温動物と変温動物ではエネルギー消費量が異なる!

このように周辺環境との関係において、恒温動物/断熱と変温動物/風通しのあいだには大きな違いがあります。この違いはエネルギー消費量の違いとなって表れます。

恒温動物は変温動物に対して、体温を保つ熱を産出する必要があるため、生命活動に数十倍から百倍程度のエネルギー量が必要になると言われます。

風通しの良い家と断熱の良い家のエネルギー消費量がどの程度違うか?ははっきりとしたデータはありませんが、アフリカの農家の暮らしが100-300W程度のエネルギー消費量に対して、先進国は3000-10000W程度ですので、似たようなところと言えるのかもしれません。

そのエネルギー消費があることで、周辺環境に依存せずに様々な場所や時間(季節)に適応して、恒常的に活動が行えることで、哺乳類は地球上に広く分布し棲息することが出来ています。同じように断熱とエアコンを使った現代的な建築が世界中に広く分布して建設されています。

一般解の 気密断熱 の良い家 と 個別解の 風通し の良い家

断熱性を良くすることを考えるときも、恒温動物の特徴は役に立ちます。その一つが表面積と体積の関係です。恒温動物は一般に、熱帯などの暖かい地域では小型で、北極などの寒い地域では大型になると言われています(ベルクマンの法則)。

これは同じ形状の立体が大きくなる時に表面積よりも体積がより大きくなることに起因しています。動物は表面積が大きいほど、外部からの熱的影響を受けたり、発汗によって放熱をすることが出来ます。逆に体積が大きいほど、熱を蓄えやすく、体温を安定させやすくなります。

そのため小型の方が熱を外へ逃がしやすく、熱帯などの暖かい環境に適し、大型の方が熱を外へ逃がしにくく、寒い環境に適するというわけです。

ベルクマンの法則_体積と表面積の増減の違いと熱帯・寒冷地域の動物の体長の関係
熱帯は小型(表面積が大きい)、寒冷地は大型(体積が大きい)の体形になりやすい
建物と表面積と熱放出の関係
表面積比が小さい立方体のような形は外部の熱的影響を受けにくい

表面積が小さい方が断熱には有利

これを建物に置き換えると、ずんぐりむっくりした立方体のような形状の大きな建物の方が外部からの影響を受けにくく室温を安定させやすいと言えます。

そのため高断熱高気密を宣伝する住宅メーカーの建物形状が必然的に似てくるというわけです。そして断熱性を志向すればするほど設計の選択肢が削ぎ落されて、少ない設計パターンでメーカーは施工することが可能になります。

マスカスタイマイズが進んだハウスメーカー産業において、高断熱を売りにした一条工務店がシェアを大きく伸ばせた要因はこうしたところにあります。

環境を切り離すことで設計条件を減らし、標準化を達成しやすい気密断熱

断熱気密を高めてエアコンを掛ける方法は、周辺環境を設計上考慮する必要性が少ないため、一般解/標準化しやすい。
断熱気密を高めてエアコンを掛ける方法は、周辺環境を設計上考慮する必要性が少ないため、一般解/標準化しやすい。

また断熱を志向することは納まりを考える上でも産業化/一般化に適していました。余計な凸凹が少ない方が断熱性には適するため、施工性が向上し、大壁構法によって気密性を施工精度に寄らずに確保しやすくし、断熱材の種類と厚さでほど断熱性が決まる断熱材を柱間に充填する納まりは、防水・水密・防火上の納まりの標準化とも結びついて、納まり上の選択肢を削ぎ落していきました。

高気密・高断熱を宣伝することは宣伝上のメリットだけでなく産業上/製造上のメリットも兼ねていたというわけです。政府が省エネ政策で断熱性能を押し進める理由も、こうした一般化/標準化がしやすいという面が大きいように思います。

環境を取り込むことで設計条件が増え、個別解になりやすい 風通し

風通しを考えるには、周囲に開く必要があるため、周辺条件に合わせた個別解になりやすい
風通しを考えるには、周囲に開く必要があるため、周辺条件に合わせた個別解になりやすい

それに対して風通しを良くしようとすることは、その建物が置かれている環境の影響を大きく受けるため、必然的に一般解へは不向きです。

風環境は日照や降雨以上に建物の周辺環境に大きく影響を受けます。そのためその建物が立地している地域環境(気候や地形や地質)を理解するところからはじまります。

どの季節にどういった風が吹きやすいのか?もしくは吹きにくいのか?特徴的な風はないのか?といったことを気象データや現地調査から明らかにしていきます。気象データが乏しい場合は、樹々の樹形を見て、風の傾向を確認したりもします(こうしたことは農家さんたちもやっています)。

愛媛県松山_夏の風の向き_日中
気象庁の気象データから作成した風配図
松山市久米窪田夏の風向現地調査_夕方
現地での風向風速計測の様子
CFDによる風のシミュレーション
コンピューターによる風の解析シミュレーション

こうした大きな風の流れを把握した上で、次にこの流れが敷地に入り込んできたときの振舞いを確認していきます。場合によっては風のシミュレーションをコンピューター上で行い、どのような建物形状が風を取り入れやすいか?もしくは往なしやすいか?どのように開口部を設けたら良いか?ということを検証していきます。

風向きが明確な地域ではその向きに対して開口部を設けたり、庭を設けたりして風を取り入れたり、逆に強風に対しては生垣や石垣などの障害物を設けて往なしたりしますし、風向きは明確でも都市の密集地で直接的に利用しにくいときは、町家建築のように中庭を設けて緩やかに空気が動くように仕向けていったりします。(参考:換気重視で密集地でもプライバシーと採光を確保する光井戸

また風を取り入れるのに、風だけ取り入れられれば良いですが、太陽光や雨、人の視線など、風以外のものも開口部から入ってくる可能性も周辺環境によっては生じてきます。それらもまた個別解となってる要因として設計条件のなかに入り込んできます。

こうした煩雑な作業は住宅メーカーやビルダーのような量を狙う会社には不向きなため、高気密高断熱でエアコンとエネルギーがあれば最低限の室内環境は確保可能、というかたちで、最低限の窓だけ配置して、どちらかというと疎かにされやすいのが現状です。

断熱 の良い家で(空気を暖めたい家で)、 気密 を忘れてはいけない

先ほどの「家のつくりようは夏をもって旨とすべし」のように、風通しは夏をメインに考えた建築環境の整え方であるのに対して、断熱は主に冬をメインに考えた建築環境の考え方と捉えて差し支えないと思います。その理由としては、家庭の年間のエネルギー消費量で冷房と暖房の消費エネルギーの差を見れば納得を頂けるのではないかと思います。こちらが年間のエネルギー消費量を環境省が示したものですが、圧倒的に暖房が占める割合が多いことがわかります。これは建物の外の気温と、冷房・暖房した室内の気温との温度差が暖房の時の方が大きいため、その分、エネルギー消費量が大きくなることが理由です。

夏の冷房の必要エネルギー、外気温と設定温度の関係
冬の暖房と必要エネルギー、外気温と設定温度の関係

真夏に外気温が35℃のときに、室温を28℃にする場合は温度差7℃ですが、真冬に外気温が5℃のときに室温を20℃にするには15℃と約2倍の温度差があります。そのため断熱の効果は夏よりも冬の方が大きく表れます。断熱を冬をメインに考えた建築環境の考え方だと考えるのは、この点です。

室温を上げれば上げるほど、寒くなる?北海道のアイヌの古民家-チセの家

北海道のアイヌの家(チセの家)の冬の温熱環境についてのレポートを読むと、気密がしっかりとしていない環境において、暖房を行うとどうなるのか?がよくわかります。冬のアイヌの家では土座の床に囲炉裏があり、外壁は笹で覆い、1mの雪の壁で断熱を施したものです。雪の断熱性能はグラスウール16K(断熱材)に対して、厚さあたりで1/3から1/10程度です。北海道の断熱材の厚さが200-300㎜程度なので3-5倍として、同程度か1/3程度と意外と高断熱な仕様であることがわかります。

しかし、実際にそこで室温を上げようと囲炉裏に火を起こすと、温度差によって、隙間という隙間から外気が流入して、最終的には断熱材である雪も溶け出す始末だったということです。

暖房をすると暖かい空気が上昇して、天井付近に溜まっていきます。そうすると相対的に床のあたりは空気が薄くなっていきますので、どこかから補わないといけなくなります。

こうしたときに隙間があると(気密が低いと)、そこから外気が流入してきて、室温が下がってしまうわけです。また風が吹くと、室内に対して外部が風で空気が押し当てられて気圧が高くなるため、隙間があると相対的に気圧が低い室内に外気が流入するという場合もあります。

高気密高断熱の環境でも換気のエネルギーロスは非常に大きいため、換気扇によって必要最低限の空気の入れ替えをし、さらに空気の入れ替え時の熱的ロスを熱交換機を設置して、供給する新鮮な空気に、排出する空気の熱を吸収させることで、換気時に出来るだけ熱を逃さない工夫をしています。

気温を上げず放射線によってじんわり暖まる、チセの家の暖房術

では、アイヌの人たちはどうしていたのか?というと、室温を上げるほどの大きな火を起こすのではなく、火からの放射によって身体や建物、土間をじんわりと暖め、蓄熱させることで、寒さを凌いでいたそうです。

現代でこそ、室温を上げる、という発想が主流となっていますが、それには大きなエネルギーが必要となります。

森林という限られたエネルギー資源に支えられていた時代に、暖炉、ストーブ、囲炉裏といった放射に頼った方法によって密やかに暖を採っていたのは、アイヌに限らず日本中で、さらには全世界的に見られることで、エネルギー源と設備の効率性の違いが各時代の暖房戦略上の違いとなって表れてきていて面白いです。

多くを燃やさないで暖を取らなければいけないことが、人々の行動を拘束して、資源保全を行うことへ繋がっていたように感じます。

断熱 と 風通し 、異なる二つの戦略を両立させるには?

これまでに見てきたように、断熱の良い家・建物と風通しの良い家・建物では目指しべき方向性が異なります。

ではその両方を同時に目指すにはどうしたら良いでしょうか?そのためには、どういった点が両者の間で矛盾するのかを整理していくのが大切です。結果、どういうバランスで両者を組み合わせるのが、自分や社会のライフスタイル、建物の使われ方に適しているか?という問いへの回答になっていくものだと考えます。

大きく矛盾するのは開口部の取り扱いです。断熱の良い建物は究極的には開口部は必要ありません、法的に必要とされる換気量や採光量が確保されて入れば、そういったものを作ることが出来ます。

それに対して、風通しの良い家は開口部が重要な要素になってきます。究極的には四阿(あずまや)のように柱だけの建物が風通しが良い建物ということになります。熱帯の民家建築を見てみると、それに近いようなつくりが出てきますし、寝殿造りや書院造りなどの日本の古い建物も、蔀や障子を開け放せば似たようなものです。

例えば北風が優位といった気象データがあったとしても24時間ずっと北風が吹き続けるということはほぼないため、すべての風を迎い入れるという選択肢を取ると、四阿のようなものにいきます。

そのため、断熱と風通しのあいだでバランスを取るには、どの風を重視するか?ということを決めることが大切になります。それは結果的に、どの季節の、どの時間の風を、どのように建物に取り込みたいのか?という風と生活のマッチングを考えることにつながります。

それが決まれば開口に不要な壁や屋根は断熱要素として考えられますので、ある一定の断熱と風通しのあいだのバランスを確保することにつながります。

では、どのような季節に風通しが意味を持ってくるのでしょうか?

実は夏と冬で異なる 高気密高断熱 の効果

冬の断熱効果
冷房、通風、日射遮蔽なしの条件での冬の断熱気密効果と必要暖房エネルギー
夏の断熱効果
冷房、通風、日射遮蔽なしの条件での夏の断熱気密効果と必要冷房エネルギー

一般的に断熱気密をしっかりとした場合、外気温に対してそのままグラフの波形を上昇させる効果があります。(実際には蓄熱分なども作用するので波形が横にずれたり、少し上下に伸びたり縮んだりします。)

暖房と冷房の設定温度と断熱効果による上昇した波形の位置関係を見ると、冬の場合は設定温度に対して近づいていくのに対して、夏の場合はむしろ離れていきます。これは高気密高断熱の場合、低断熱低気密に比べて外からの熱が伝わりにくいのと同時に内に入った熱を排出しないためです。

外気温に合わせて 高気密高断熱 と 風通し を組み合わせる

内側に入り込んだエネルギーは排出されない限りは保存されつづけるので、冷房の障壁となります。

そのため高気密高断熱にする際に、夏の日射遮蔽をしっかりと行い(これがないとすぐにグラフのようにオーバーヒートします)、外気温が下がっている時間は必要に応じて、空気を入れ替える=風を通して躯体を冷却することが効果的です。これによって断熱気密効果で上昇していた温度を外気温相当まで冷房なしでも下げることが可能となります。

また風通しを行っている状態でも高断熱高気密の建物は低断熱の建物に比べ外部からの熱的影響を抑えることができるので室温・表面温度を低い状態に保つことができ、体感温度を下げることができます(アイヌのチセの家の逆の状態)。断熱が風通しの効果を高めます。

気温以外の快適さを考慮する、体感温度(SET*)

体感温度SET*が有名でしょうか)にこのほかに影響を及ぼすのが、気流速度や湿度、衣服の種類(着衣量)などがあります。体感温度の視点からみていくと、気温以外の要素が快適さにいかに影響を及ぼしているか?ということが実感できます。

夏に大きな影響を及ぼすのは湿度です。特に気温が高いほど影響が強く出てきます。グラフをみると気温33℃のときに、湿度が50%から60%へ10%上がると体感温度は1.2℃上昇します。調理中のキッチンや厨房などではこういった高温多湿で体感温度が高い環境になりやすいので注意が必要です。

また湿度・水分量をコントロールするのには非常に大きなエネルギーを必要とします。お米づくりでも、木材生産でも一番エネルギーを使う工程は乾燥です。エアコンの除湿は効果は絶大ですが、使うタイミングは考えた方が良いと思います。

気温の影響はさほど受けずに体感温度を左右するのが気流の流れです。風速0.1m/sが風速0.3m/sにあがると、およそ2℃体感温度が下がります。扇風機の微風の首振り時、距離1mで風速で1.8m/s~2.0m/sを計測するので、0.3m/sは本当に緩やかな風です。

エアコン使用時もサーキュレーターや扇風機の併用が効果的なのは、こういった体感温度からの影響です。気流が遅いときは人の身体や建物などの物体のまわりには薄い空気層が纏わりついていて周辺空気からの熱的影響が抑えられているのですが、気流が速いとこの空気の膜が飛んで行ってしまい、熱交換が迅速に行われるようになります。また人の身体の場合、発汗による水蒸気が身体のまわり留まっているのを発散してくれるので、気化冷却効率が上がるという効果もあります。

実は一番効率的に体感温度の効果を得られるのが着衣量=服装です。30℃の日に長袖シャツ長ズボンを半袖シャツ半ズボンへ着替えれば、体感温度で-1.6℃の効果が得られます。特に冬の服装の違いは体感温度に大きな影響を及ぼします。昔の日本人が暖房よりも厚着で寒さを凌いでいた理由はこういったところにあるように感じます。

極寒仕様防寒具(4clo)を着ていれば10℃の気温でも30.8℃の体感温度になります。ただ実際に行えばわかりますが肩こりには要注意、出来るだけ軽量の防寒具がおすすめです。ちなみにこの極寒仕様防寒具はウサギやヒツジなどの動物たちの毛には劣るようで、動物の体の防寒能力に驚きます。(九州住環境研究会

風速とSET*との関係
着衣量とSET*との関係

SET*に興味がある方はリンク先のアプリに数値を色々と入力して試してみてください。

自然に寄り添い、自然を手繰り寄せる 風と火と農家住宅

風と火と農家住宅 秋の俯瞰図

風と火と農家住宅」は自然栽培のお米をつくる松山市の米農家さんの農家住宅です。重信川にほど近い敷地はその河の軸にそって流れる東西の卓越風が特徴でした。自然の力でお米をつくる農家さんにふさわしい、自然の風を利用した住宅を目指して設計しました。

まず先ほどの卓越風を現地調査と気象データから割り出し、風通しのための基本方針を定めます。この際に、周辺の古民家の自然環境に対する考え方も参考にします。前述のように東西軸の風が吹くことがわかりましたので、東西に長い敷地に対して、平行して東西に細長い建物を計画しました。東側にある近くの大きな体育館の影響が懸念されましたが、現地での計測・風のシミュレーションの結果から大きな影響はなさそうだと判断できました。

計画は東西に対して門型の構造フレームを並べることで、風洞のように風の道を建物内に確保し万遍なく風が通り抜けるようにしました。それ以外の面は南面に採光用の大きな開口部を設けるに留め、最小限に抑えることで断熱性を損なわないように配慮しました。

建物の外皮は省エネ基準を十分に満たす仕様とし(ZEH基準)、配管回りなどの気密に注意して工務店さんにも施工頂きました。冬は薪ストーブを利用し、薪の熱エネルギーを出来るだけ逃がさないようにしっかりと断熱されています。

このように自然の風に寄り添い、自然の火を手繰り寄せる、 断熱と風通しの両立を目指した住宅になります。

経済の発展はつねに、人々が物を作る代わりにこれ以後買うことが出来るようになる、ということを意味してきた。市場をこえている使用価値が商品に置き換えられるのである。経済の発展=開発はまた、商品なしに暮らすことを可能にしていた諸条件が物理的・社会的・文化的環境から消え去ったがゆえに、まもなく人々が商品を買わざるを得なくなるということも意味している。そうなると環境は、物資やサービスを金銭で買う能力のない者によって使用されることがもはや不可能となる。
p.24 シャドゥ・ワーク 著:イリイチ 訳:玉野井芳郎・栗原彬 岩波文庫

開発はたしかに私たちを環境から切り離し、商品に依存させます。しかし開発の仕方によっては、環境の価値を高め、開発と環境の双方の良さを引き出しあうことも可能であると信じています。

関連情報

風通しを良くするための考え方については「愛媛・松山で自然の 風 を利用する暮らし方-環境を読み、風を建築へ導く」の記事も合わせてご覧ください。田園地帯、住宅地と異なる環境における風通しの考えを事例を通してまとめています。(前半は瀬戸内の海沿いに見られる海陸風の考え方です。興味がない方は読み飛ばしてください。)

http://colife3.com/1911-how-to-create-a-well-ventilated-house-in-local
https://colife3.com/824-the-environment-of-japan-shikoku-created-by-the-eurasian-continent/
http://colife3.com/farm-house-of-wind-and-fire

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