山林が 薪 を生み出す力
自然に寄り添ったまちづくりを考えたいという方と話をする機会を得ると、度々、地域の 山林 の 薪 でエネルギーを 地域自給 をすることは出来ないのか?という質問を頂くことがあります。私としてはライフスタイルを変えれば可能性はあるし、変えなければ難しいというのが答えだと考えています。山林の燃料の簡単なシミュレーションをしてみましょう。日本の山林のうち育林・伐採が主に行われる人工林の面積が全体のおよそ40%を占めます。その年間の成長量が0.48億m3とされています。これだけ聞くと途方もない量の木材の資源が毎年森林で自然に成長しているように聞こえます。果たしてこの数値は本当に膨大な量なのでしょうか?
山林 の成長量をエネルギーとして捉えると?
この0.48億m3が家庭の暖房給湯のエネルギーをどの程度賄えるのか?を考えてみたいと思います。日本の人工林の主な樹種はスギとヒノキですので、比重0.4t/m3を計算値として仮に採用した場合、年間の成長量は0.192億tになります。薪の重量当たりのエネルギー量は20MJ/㎏ですので、20GJ/tです。そうすると年間の成長量のエネルギーは3.84億GJとなります。日本の家庭の一世帯当たりの暖房給湯に使われる年間のエネルギーが23.7GJとされています。
仮に薪ボイラー・薪ストーブのエネルギー変換効率が配管のロスを含めて80%と仮にすると、約3億GJが薪から暖房給湯用のエネルギーとして取り出すことが出来ます。よって薪で1296万世帯の暖房給湯を賄える計算になります。日本の世帯数は5431万世帯(2020年)ですので、全体の約24%で、あくまで家庭の給湯暖房のみに絞ったもので、成長量を建材などには使用せずに全て薪として消費した場合です。
こう考えると江戸時代にほぼ全ての世帯の暖房給湯を賄い、そして大火で燃える都市建造物をはじめとした建築用材も自給していたことが奇跡のように感じてきます。当時の窯の薪のエネルギー変換効率は現在の1/10以下で大きな改善が見られる一方で、人口は江戸末期で3400万人程度だったものが約3.7倍の1.25億人に増加し、消費する一人当たりのエネルギー量が10倍以上に膨れ上がっている結果です。
家庭でのエネルギー消費 と 住宅 の関係
こうしたライフスタイルや設備のエネルギー消費の影響は、都市部に多い集合住宅と地方に多い戸建て住宅という住まい方・世帯当たりの人数の違いや住戸・設備機器の更新頻度の違いにも見られます。現状の集合住宅と戸建て住宅のエネルギー消費量は地域にも寄りますが1.5倍程度、戸建て住宅の方が消費している傾向にあります。
これは古い住宅で断熱性能が悪いなかで冷暖房をする場合に、1戸あたりの表面積が小さい集合住宅の方が断熱性能が優れることでエネルギー消費が抑えられる面と、そして都市部に集中する集合住宅の方が更新頻度が高いため最新の設備機器の割合が高いことに起因しています。田舎ほど建物の更新が遅く、そのため断熱性能や設備機器が古いままで、ライフスタイルは現代的になっているため、地方・田舎での割合が多い戸建て住宅がエネルギー消費が高い傾向を示します。
また少子高齢化の進行で戸建て住宅においても独居老人の単身世帯が増えているため、地方では世帯あたり世帯人員は戸建てと集合住宅とのあいだで数値が近づいていっている傾向があります。こうしたライフスタイルの変化はエネルギー消費へ大きな影響を与えています。
集合住宅が効率的であることは正しいのですが、この数値を見るときに少し注意も必要です。一般的に集合住宅よりも戸建て住宅の方が世帯人数は大きく、戦後の個室化の影響でエネルギーを消費する場所が増え、キッチンや浴室などの大きな設備機器を共有することで居住者あたりのエネルギー消費は抑えられる反面、世帯当たりのエネルギー消費が上がっていることも影響しています(個室化がエネルギー消費を数倍、十数倍にする傾向は薪を暖炉にくべていた時代から西欧で指摘されています)。
そのため戸建て住宅の方が世帯単位で見たときに数値が大きくなりやすい傾向があります。個人単位でも集合住宅の方が効率的である数値を示しますが、それは世帯単位ほどの差ではないことに気を配る必要があります。国交省の平成30年の住宅・建築物のエネルギー消費性能の実態等に関する研究会の戸建てと集合住宅の比較によると(リンクPDF17枚目)の世帯当たりのエネルギー消費の数値なので年度が異なるデータになりますが、持ち家と戸建て借家の世帯当たりの世帯人員が2.90人/世帯なのに対して、その他の借家は1.96人/世帯になります。
エネルギー消費の方は戸建て41.4GL/世帯・年に対して、集合住宅23.7GL/世帯・年と1.7倍の開きがありますが、一人当たりに置き換えると、戸建て14.3GL/人・年と集合住宅12.1GL/人と1.2倍程度の開きしかありません。項目別に見ると暖房が特に開きが大きく、世帯当たりで2.8倍、一人当たりで1.89倍になり、戸建てと集合住宅のエネルギー消費の違いは暖房の違いと還元して良さそうです。
冷房、給湯、調理は一人当たりでは0.95倍、0.99倍、0.78倍と戸建ての方が効率的という結果になっており、暖房と冷房で同じ傾向にないところを見ると、一概に戸建てと集合住宅間のエネルギー消費の違いを断熱性の違いへ還元するのも危険に感じます。
エアコンで暖房を取るのと灯油ストーブや電気ストーブを使うといった違いなど、使う機器や機器の使い方も十分に加味した比較が必要と感じるところです。また地域別でみたときに北国で灯油消費の割合が高く、暖房のエネルギー消費が高く、かつ戸建ての比率が高いという面も関係があるのかもしれません。暖房と冷房のあいだの傾向の違いは建築時期別世帯当たりのエネルギー消費にも言え、冷房の場合はほぼ差がない、古い建物がむしろ効率的なのに対して、暖房は新しい建物が明らかに効率的という結果を示しています。
地域から見た 山林 の成長量とエネルギーの関係 愛媛の 薪 の 地域自給
これまで見てきたように、地域によって暖房エネルギーが必要な量は大きく異なり、森林の成長量も異なります。林野庁の都道府県別森林率・人工林率(R4)によると愛媛県の人工林は244,332haあり、日本全体の2.4%に当たります。日本全体で見れば温暖なエリアなので年間の森林の成長量は平均よりも高いと思われますが、手元にデータがないので、平均の数値を採用し、スギ・ヒノキの比重を使った場合、日本の年間の成長量のエネルギーは3.84億GJでしたので、その2.4%、921.6万GJが愛媛県の年間成長量のエネルギーです。
薪ストーブ、薪ボイラーの効率は80%として、737万GJです。四国の一世帯当たりの暖房給湯のエネルギー消費は12.8GJ/世帯・年なので58万世帯を賄える計算になります。愛媛県の世帯数は2024年で60万世帯ですので、96%の世帯分のエネルギーを人工林の年間成長量で賄えることになります。これはあくまで燃料として全てを使った場合のシミュレーションです。
では実際に愛媛の樹木がどのように使われているのか林野庁の木材統計調査/木材需給報告書を見てみましょう。全国平均と比較するとその特異さがわかります。全国平均ではおよそ60%が製材用、20%が合板用、残りの20%がチップ用(バイオマスやパルプ用)となっています。
それに対して愛媛はおよそ94%が製材用とほとんどが製材用になっています。これはm3単価の高い製材用で山林あたりの価格を高く保つことで経営力を付けることを目的としているためです。木材需給報告書の価格でもチップ用9,700円/m3と製材用スギ:17,200円/m3、ヒノキ:25,100円/m3でヒノキでは2倍以上の開きがあります。
こうした製材に集中している傾向は愛媛だけでなく四国や九州一体で同じ傾向がみられます。バイオマス発電が輸入材に頼っているというニュースが流れていたりしますが、現在の戦後から成長しきった丸太をチップで出す価格のインセンティブがないという現実です。こうした傾向を説明すると製材用の丸太を搬出している山林以外のところから出せないものか?という質問を受けます。
「愛媛で地域に寄り添い木材を使う How to sustainably use local wood in Ehime」にて説明をしたように、樹木は人などの動物と同じように若年の頃の方が早く成長します。この違いは人の手の入る山林である人工林と人の手が入りづらい天然林との成長速度=循環速度の違いとなって表れてきます。林業も人の手によって循環の速度を速めて自らの方へ手繰り寄せて自然を産業化しているのです。
一般に燃料用の木材資源は建材用の木材資源よりも短いスパンで伐採されます。それは成長速度の高い時期を最大限に活用するためで、建材用が40-50年と言われるのに対して、20年程度です。それによて価格が半分以下でも、土地からの収量は2倍以上となり、手間も2倍になってますが、利を確保できるようになる、という仕組みです。
このように燃料用木材を供給する山林と建材用木材を供給する山林は同じ山林のように思えて、全く違う山林となっています。この燃料用、建材用の山林のなかでも木々が密集したもの、樹種の違い、単世代、多世代、様々な山林があり、それぞれに特徴があります。放っておいて燃料用の山林になるわけではありません。そしてそれは自然なものではありません、人工的に維持することで燃料用の山林となるもので、そのためには持続的に燃料用の木材を消費する消費地・消費者の存在が不可欠で、その消費と生産と自然が織りなす文化的なものなのです。
愛媛において、山林の成長速度、必要となる木材資源量の量的な側面でいえば、木材資源で暖房・給湯エネルギーを賄うことは十分に可能でしょう。どちらも熱エネルギーですので太陽熱も併用すれば、より効率的に余力を持った運用もできると思います。但しそれは、それを生産・消費させる流通網を組織して消費と生産を循環を構築した場合に限る、冒頭でライフスタイルを変えれば可能性があると述べたのは、そうした理由です。
乾燥させることの大事さ
これは建材として用いる際にも言えることですが、薪・木質資源を燃料として活用する際に重要になるのは木材を乾燥させることです。薪でキャンプをしたことがある人ならすぐにわかると思いますが、生木で水分を多く含んだ薪は燃えにくいということを理解できると思います。しっかりと乾燥させた薪を使わないと燃焼して熱を出すエネルギーが水分を蒸発させて飛ばすために使われてしまうため、エネルギー効率がすごく落ちる結果となります。先に水分を飛ばさないと燃えださないことは、紙コップに水を入れて火をつけるとよくわかります。
化学的に見ると水はH2OとH:水素とO:酸素が共有結合によって結び付けられて出来ています。水はこの結合だけでなく酸素側が極性を持っていて電子を引き寄せやすい状態になっており、もう一つ弱く柔らかい水素結合と呼ばれる結合力によってクラスターを形成しています。水から水蒸気へと変化させるには、このクラスターの結合を一つ一つ解いていく必要があるため、普通の物質よりもたくさんのエネルギーを必要とします。これが生木が燃焼時にエネルギー効率を大きく落とす原因となります。
山林から丸太を搬出して、製材し、乾燥して商品となるまでの過程で、一番エネルギーを必要とするのは、実は乾燥の工程になります。国交省(一般社団法人日本サスティナブル協会受託)と慶応義塾大学伊香賀研究室等で作成された建築用木材データベースの数値によると、およそ全体の70%~80%が乾燥の工程でエネルギーが使われています。
水分を飛ばすということが、いかにエネルギーを必要とするものかということが実感できます。こうした傾向はお米づくりでも同じように乾燥がエネルギーを消費します。これは仮に無農薬や自然農法、有機農法だったとしてもそうです。農林水産技術情報協会の調べによると乾燥が全体の半分程度を占めます。木材もお米も昔は太陽の光を利用した自然乾燥でしたが、社会へ消費者が満足する安定した量と品質の供給を実現するためには人工的な乾燥が不可欠となっています。
乾燥棚としての外壁 木材をカスケード利用する 納屋-みずと木とひ
「納屋-みずと木とひ」は「風と火と農家住宅」の自然農法のお米農家のお施主様の一時的な納屋のプロジェクトです。数年後には経営規模の拡大のため大規模な納屋=倉庫が必要となるため、それまでの利用という少し変わった用途の制限を持っていました。
そのため後々別の用途へも利用可能なように木架構のシンプルながらんどうの平屋として(納屋としてもそれが好ましかったので)、外壁は背板と呼ばれる製材時に出る端材(丸太の中央から角材を取り出した残りの弧の部分)を実験的に利用しています。
この背板は以前はよく割り箸の原料として使われていた部位でしたが、現在ではチップにされて発電やパルプの燃料に回されることが多いです。この背板に簡単な加工して簡易な外壁材とすることで、製材所には加工手間賃が背板に上乗せされ、お施主様はチップ用の価格に加工手間賃を加えた低予算の材が手に入るようにしました。(施工部分は低予算にするには、まだ改善が必要そうなので、DIYで使うのが無難かもしれません)
木架構に使われた柱・梁などの構造材、そして外壁の背板は生木で現場に搬入されています。一時利用として使われる期間を乾燥期間として太陽と風の天然乾燥でゆっくりと水分を飛ばしていきます。本来であれば背板はすぐに燃料として燃やされて、二酸化炭素になって大気に還るところを、外壁としての利用、そして乾燥の時間を挟んで、遅延することで(専門的にはカスケード利用と呼ばれます)、より長い期間、木材のなかに炭素を閉じ込めておくことができ、水分が飛んだ燃焼効率の良い薪ができます。
一般に自然状態で樹木が枯死してから、土に還るまで、十数年以上の長い年月をかけてゆっくりと分解されていきます。そのようにして養分(炭素など)が少しずつ、次の世代へと引き継がれていきます。薪を暖房・給湯のエネルギー資源として考えることは循環型の資源特性、古くから使われてきている実績、エネルギー効率の観点から見て、利点が多いです。しかし速い利用は炭素貯蔵の観点から見たとき、枯死木の分解の速度からみても有効な手段とは言えません。社会はより速い速度で資源を回転させることで、より多くの資源を効率的に使う方向で進歩してきました。
その一方で炭素貯蔵の観点から考えるとき、私たちは社会のなかに、この炭素資源を、どのようにゆっくりと、しかし、より多く、貯蔵して、回し続けることが出来るのか?そのような観点が必要なように思います。
地域・国によって異なるエネルギー消費
戸建て住宅と集合住宅の違いの原因となっていた暖房消費エネルギーの違いは国内での地域差や国ごとの地域差を説明するもとにもなります。日本が南北に大きいため暖房給湯のエネルギー消費量も南北で大きく変わります。
この暖房給湯のエネルギー消費量の違いが家庭の全体のエネルギー消費量の違いに直結しており、さらに言えば世界各国のエネルギー消費量の違いにも反映されています。こうした違いは発展途上国のエネルギー消費の構成がこれまでの欧米を中心とした先進国とは異なる可能性も指示しています。
家庭部門に限定した資料(住環境計画研究所 中上氏の環境情報科学2020エッセイ)では2015-2018年のアメリカ、イギリス、フランス、ドイツ、日本の世帯あたりのエネルギー消費量を比較しています。こちらではアメリカ82GJ/世帯・年、ヨーロッパが53GJ/世帯・年、日本が31GJ/世帯・年となっており、日本がいかに温暖で、生活でのエネルギー消費の抑えやすい環境にいるか、ということを実感します。
欧米諸国と日本では世帯の世帯人員数はあまり差がないので世帯当たりのまま比較を進めます。アメリカが他に比較して大きなエネルギー消費の値を示しているのは資源国であるため、エネルギーの効率性への意識が乏しいためで(カナダや中東諸国も似た傾向を示します)、エネルギー資源に乏しい欧州や日本が似た傾向を示しているものです。暖房以外の冷房、給湯、照明その他はアメリカは例外で大きな値ですが、欧州諸国と日本は大体同じ程度の大きさとなっています。アメリカは緯度が低緯度から高緯度まで広いため単純な比較がしづらいですが、暖房エネルギーは欧州並みの値を示しています。今一度日本の地域別の数値を思い出すと、おおよそ北海道と欧米諸国は同じくらいであり、日本の平均はその1/4から1/5程度の値となっています。
燃料革命以前の薪・木炭に依存していた都市生活において、欧米で暖炉や薪ストーブが発達した理由、そしてその町を維持するために膨大な後背地が必要なことが分散した都市国家を形成する理由の一つとなっていたのでしょう。
下の図は産業も含めた一人当たりのエネルギー消費量を国ごとに比較したものです。Factfulnessでお馴染みのハンス・ロスリングらが提供しているGapminderを使ったものです。1960年代には867kwh/人だったものが(グラフをクリックすると国名と各国のエネルギー消費量が左軸に表示されます)、2013年には3570kwh/人まで大きくなっています。
先進国の一人当たりのエネルギー消費量は2000年あたりをピークに機器の更新とともに低下傾向にありますが、それでも他の国々と比較すると数倍から十倍程度の開きがあります。ライフスタイルの違い、Factfulness, Gapminderの考えで言えばGDPの違いがエネルギー消費のあり方に大きな影響を与えています。GDPの違いが選択可能な素材や設備の違いに影響し、素材や設備の違いがライフスタイルへと影響し、生きるための行動がエネルギーを消費していきます。
地域から見た 山林 の成長量とエネルギーの関係 愛媛の 薪 の 地域自給
これまで見てきたように、地域によって暖房エネルギーが必要な量は大きく異なり、森林の成長量も異なります。林野庁の都道府県別森林率・人工林率(R4)によると愛媛県の人工林は244,332haあり、日本全体の2.4%に当たります。日本全体で見れば温暖なエリアなので年間の森林の成長量は平均よりも高いと思われますが、手元にデータがないので、平均の数値を採用し、スギ・ヒノキの比重を使った場合、日本の年間の成長量のエネルギーは3.84億GJでしたので、その2.4%、921.6万GJが愛媛県の年間成長量のエネルギーです。
薪ストーブ、薪ボイラーの効率は80%として、737万GJです。四国の一世帯当たりの暖房給湯のエネルギー消費は12.8GJ/世帯・年なので58万世帯を賄える計算になります。愛媛県の世帯数は2024年で60万世帯ですので、96%の世帯分のエネルギーを人工林の年間成長量で賄えることになります。これはあくまで燃料として全てを使った場合のシミュレーションです。
では実際に愛媛の樹木がどのように使われているのか林野庁の木材統計調査/木材需給報告書を見てみましょう。全国平均と比較するとその特異さがわかります。全国平均ではおよそ60%が製材用、20%が合板用、残りの20%がチップ用(バイオマスやパルプ用)となっています。
それに対して愛媛はおよそ94%が製材用とほとんどが製材用になっています。これはm3単価の高い製材用で山林あたりの価格を高く保つことで経営力を付けることを目的としているためです。木材需給報告書の価格でもチップ用9,700円/m3と製材用スギ:17,200円/m3、ヒノキ:25,100円/m3でヒノキでは2倍以上の開きがあります。
こうした製材に集中している傾向は愛媛だけでなく四国や九州一体で同じ傾向がみられます。バイオマス発電が輸入材に頼っているというニュースが流れていたりしますが、現在の戦後から成長しきった丸太をチップで出す価格のインセンティブがないという現実です。こうした傾向を説明すると製材用の丸太を搬出している山林以外のところから出せないものか?という質問を受けます。
「愛媛で地域に寄り添い木材を使う How to sustainably use local wood in Ehime」にて説明をしたように、樹木は人などの動物と同じように若年の頃の方が早く成長します。この違いは人の手の入る山林である人工林と人の手が入りづらい天然林との成長速度=循環速度の違いとなって表れてきます。林業も人の手によって循環の速度を速めて自らの方へ手繰り寄せて自然を産業化しているのです。
一般に燃料用の木材資源は建材用の木材資源よりも短いスパンで伐採されます。それは成長速度の高い時期を最大限に活用するためで、建材用が40-50年と言われるのに対して、20年程度です。それによて価格が半分以下でも、土地からの収量は2倍以上となり、手間も2倍になってますが、利を確保できるようになる、という仕組みです。
このように燃料用木材を供給する山林と建材用木材を供給する山林は同じ山林のように思えて、全く違う山林となっています。この燃料用、建材用の山林のなかでも木々が密集したもの、樹種の違い、単世代、多世代、様々な山林があり、それぞれに特徴があります。放っておいて燃料用の山林になるわけではありません。そしてそれは自然なものではありません、人工的に維持することで燃料用の山林となるもので、そのためには持続的に燃料用の木材を消費する消費地・消費者の存在が不可欠で、その消費と生産と自然が織りなす文化的なものなのです。
愛媛において、山林の成長速度、必要となる木材資源量の量的な側面でいえば、木材資源で暖房・給湯エネルギーを賄うことは十分に可能でしょう。どちらも熱エネルギーですので太陽熱も併用すれば、より効率的に余力を持った運用もできると思います。但しそれは、それを生産・消費させる流通網を組織して消費と生産を循環を構築した場合に限る、冒頭でライフスタイルを変えれば可能性があると述べたのは、そうした理由です。
乾燥させることの大事さ
これは建材として用いる際にも言えることですが、薪・木質資源を燃料として活用する際に重要になるのは木材を乾燥させることです。薪でキャンプをしたことがある人ならすぐにわかると思いますが、生木で水分を多く含んだ薪は燃えにくいということを理解できると思います。しっかりと乾燥させた薪を使わないと燃焼して熱を出すエネルギーが水分を蒸発させて飛ばすために使われてしまうため、エネルギー効率がすごく落ちる結果となります。先に水分を飛ばさないと燃えださないことは、紙コップに水を入れて火をつけるとよくわかります。
化学的に見ると水はH2OとH:水素とO:酸素が共有結合によって結び付けられて出来ています。水はこの結合だけでなく酸素側が極性を持っていて電子を引き寄せやすい状態になっており、もう一つ弱く柔らかい水素結合と呼ばれる結合力によってクラスターを形成しています。水から水蒸気へと変化させるには、このクラスターの結合を一つ一つ解いていく必要があるため、普通の物質よりもたくさんのエネルギーを必要とします。これが生木が燃焼時にエネルギー効率を大きく落とす原因となります。
山林から丸太を搬出して、製材し、乾燥して商品となるまでの過程で、一番エネルギーを必要とするのは、実は乾燥の工程になります。国交省(一般社団法人日本サスティナブル協会受託)と慶応義塾大学伊香賀研究室等で作成された建築用木材データベースの数値によると、およそ全体の70%~80%が乾燥の工程でエネルギーが使われています。
水分を飛ばすということが、いかにエネルギーを必要とするものかということが実感できます。こうした傾向はお米づくりでも同じように乾燥がエネルギーを消費します。これは仮に無農薬や自然農法、有機農法だったとしてもそうです。農林水産技術情報協会の調べによると乾燥が全体の半分程度を占めます。木材もお米も昔は太陽の光を利用した自然乾燥でしたが、社会へ消費者が満足する安定した量と品質の供給を実現するためには人工的な乾燥が不可欠となっています。
乾燥棚としての外壁 木材をカスケード利用する 納屋-みずと木とひ
「納屋-みずと木とひ」は「風と火と農家住宅」の自然農法のお米農家のお施主様の一時的な納屋のプロジェクトです。数年後には経営規模の拡大のため大規模な納屋=倉庫が必要となるため、それまでの利用という少し変わった用途の制限を持っていました。
そのため後々別の用途へも利用可能なように木架構のシンプルながらんどうの平屋として(納屋としてもそれが好ましかったので)、外壁は背板と呼ばれる製材時に出る端材(丸太の中央から角材を取り出した残りの弧の部分)を実験的に利用しています。
この背板は以前はよく割り箸の原料として使われていた部位でしたが、現在ではチップにされて発電やパルプの燃料に回されることが多いです。この背板に簡単な加工して簡易な外壁材とすることで、製材所には加工手間賃が背板に上乗せされ、お施主様はチップ用の価格に加工手間賃を加えた低予算の材が手に入るようにしました。(施工部分は低予算にするには、まだ改善が必要そうなので、DIYで使うのが無難かもしれません)
木架構に使われた柱・梁などの構造材、そして外壁の背板は生木で現場に搬入されています。一時利用として使われる期間を乾燥期間として太陽と風の天然乾燥でゆっくりと水分を飛ばしていきます。本来であれば背板はすぐに燃料として燃やされて、二酸化炭素になって大気に還るところを、外壁としての利用、そして乾燥の時間を挟んで、遅延することで(専門的にはカスケード利用と呼ばれます)、より長い期間、木材のなかに炭素を閉じ込めておくことができ、水分が飛んだ燃焼効率の良い薪ができます。
一般に自然状態で樹木が枯死してから、土に還るまで、十数年以上の長い年月をかけてゆっくりと分解されていきます。そのようにして養分(炭素など)が少しずつ、次の世代へと引き継がれていきます。薪を暖房・給湯のエネルギー資源として考えることは循環型の資源特性、古くから使われてきている実績、エネルギー効率の観点から見て、利点が多いです。しかし速い利用は炭素貯蔵の観点から見たとき、枯死木の分解の速度からみても有効な手段とは言えません。社会はより速い速度で資源を回転させることで、より多くの資源を効率的に使う方向で進歩してきました。
その一方で炭素貯蔵の観点から考えるとき、私たちは社会のなかに、この炭素資源を、どのようにゆっくりと、しかし、より多く、貯蔵して、回し続けることが出来るのか?そのような観点が必要なように思います。

