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雨が多い高知と雨が少ない高松の理由から四国の気候と地形に寄り添う建築を考える

四国 の気候の面白いのは、日本でも有数の年間3000㎜を超える降雨地帯と日本で有数の年間1000㎜程度の少雨地帯が隣り合って存在しているところです。

この 雨 の結果を導いている仕組み・構図はその巨大版・世界版である世界の屋根ヒマラヤ山脈の地形と地球の動きが気候の原因となっています。

四国の降雨量の分布

モンスーンと呼ばれるインドの南側の海からヒマラヤ山脈に向けて吸い上げられる湿った空気によって、東南アジア、東アジア、そして日本が雨に恵まれた緑の多い環境となっています。縮小版の四国では四国山脈がヒマラヤ山脈の役目を果たすことで高知にたくさんの雨をもたらしています。

巨大版は日本が中緯度の本来なら砂漠が多い立地にありながら、雨に恵まれ四季に富んだ気候を持つことの理由にもなっています。

ヒマラヤ山脈の裏側ではシルクロードの砂漠地帯が生まれていて草木がほとんど生えない環境が生まれています。

これは夏は南の海からの暖かい湿った空気はヒマラヤ山脈によって阻まれて山を越えた乾いたカラカラの空気が下降とともに気温を上げてもたらされるため乾燥します。高松をはじめとした瀬戸内海側の夏の少雨はこれと同じものです。

冬の瀬戸内海側の少雨は直接的には同じものではないですが、やはりヒマラヤ山脈との関係を持っています。

ヒマラヤ山脈とモンスーン・雨陰砂漠
ヒマラヤ山脈の縮小版としての四国山地

冬は北極からの冷たい空気が入り込み、それがまたヒマラヤ山脈によって阻まれるために山脈の北側に停滞するため地表面を冷やします。冷たい空気は湿度をほとんど空気中に含むことができずカラカラになります。

地表面は氷点下になっているため地面からの水蒸気の供給もなく、地表面が冷えれば冷えるほど下降気流が発達し、空気が下降すると気温が上昇し乾燥します。この空気が地球の大気循環にのって東にながれ日本海で水分を得ることで日本に雪がもたらされます。

瀬戸内海は今度は中国山脈によって阻まれ、水分を落とした冷たいカラカラの空気がまた下降してくることで気温が上がり乾燥します。

このように気候が大きく異なる四国では建築のかたちも地域によって変わってきます。雨が多い地域にはその対策が施されます。

熊本の覆い屋建築-人吉/本殿を雨から守っている
高知の覆い屋建築-梼原/本殿を雨から守っている
伊勢-赤副本店の雨除け板/軒先から木板を垂らして本体を守っている

高知側のそうした建築はむしろ同じく中央構造線の南側の地質帯に属した多雨地帯である紀伊半島や臼杵-八代構造線の宮崎や熊本と似ています。植林やミカンなどのように宗教的な交流ももしかしたら関係があるのかもしれません。

そうした地域を超えた類似性も含めて見ていきたいと思います。

まず巨大版で雨の地形の関係性を理解した上で、四国の気候を見ていきたいと思います。

軒の深さ

四国で愛媛県の瀬戸内海側が雨だけでなく風も全国的におとなしい地域で、高知側が雨だけでなく風も強い地域となります。そのため先ほどの讃岐の砂糖小屋や愛媛県砥部のみかん小屋の軒の出を見ても短いです。

それに対して高知県のなかでも多雨地域の大豊町の集落のお堂を見てみると、中央のお堂に対して半間の縁側がまわり、さらにそこから半間の軒が出るかたちとなり、お堂本体を深く雨から守っています。

遠くから眺めると軽快で優美な屋根も近寄ると垂木も細かく野地板も何重にも重なりかなり重厚な造りとなっています。雨と同時に風への対処にもなっているのかもしれません。このように同じ四国でも気候・環境の違いで大きく形状が異なります。

愛媛県砥部町のみかん小屋
高知県大豊町-川井観音堂
強い風雨に備えた深く重厚な屋根

雨よけ板

こうした深い軒の場合でも側面のケラバ部はやはりダメージを受けやすくなります。こうした問題に対処する手法として外壁から離したケラバの下部に板を下げ降ろして、建物本体の外縁部へのダメージを軽減させています。

こうした手法は紀伊半島の多雨地域にも広がっており、地域によってはこの雨除け板を軒先部にも設けることで軒の出の方向ではなく垂直方向に軒を下げつつ、軒先もカバーして、ダメージの受けやすい軒先先端部も風雨から守っています。

高知県室戸市:雨除け板
高知県南国市:雨除け板
高知県大豊町_雨除け板
奈良県五條_雨除け板
奈良県十津川村_雨除け板(完全防備型)
三重県伊勢市_雨除け板(赤福本店)

高知の雨除け板の現代アレンジ「雨と風と光の暮らし」

高知県の四国山地と太平洋のあいだに位置する古い集落を敷地とする住宅のプロジェクト「雨と風と光の暮らし」において、この雨除け板を現代的にアレンジし直すことは出来ないか?と考えました。

雨除け板は軒先・ケラバの下端を板で下げることによって、雨が建物本体に近づかないように遮ることを目的としていて、その分、開口部が低く、狭くなりがちです。

そこで軒先部の雨除け板を透明な板とすることで採光を建物の奥まで確保しながら端部の耐候性、そして建物本体への雨を遮る能力を高めています。

高知県は台風の通り道となる可能性もあり、暴風時にさまざまなモノが飛んでくる可能性もあります。そのため機動隊の盾などにも用いられるポリカーボネート板を使用することで耐衝撃性を高めて安全性を確保するように配慮するよう考えています。

建物は小さな段丘の法面に位置し、風が屋根の上を通り抜けやすい敷地断面環境にありました。

そのためH型の平面プランにして、リビングダイニングに対して前庭、中庭を設けることで隣地や段丘に対してセットバックしてゆとりを取ることで、雨除け板はウィンドキャッチャーとして風を導く役割も果たすように考えています。

覆い屋

屋根仕舞いに限るものではないのですが、四国の山間部の社は本殿を覆い屋で覆っているものが多数見られます。

年代は古いものもあれば、最近の集落の過疎化の影響で修繕費を集落で集めることが出来ず、間に合わないために応急処置的に覆い屋を設けるケースもあります。

こうした覆い屋で本殿を覆う手法は熊本の人吉周辺にも見られ、山深い地域では必然的に辿り着く考えのように思えます。

熊本県人吉の覆い屋_老神神社
愛媛県砥部町高市の覆い屋_高森三島神社
愛媛県伊予市中山の覆い屋_山吹神社
高知県梼原町の覆い屋建築_三嶋神社

関連情報

https://colife3.com/5153-it-is-difficult-to-achieve-energy-saving-effects-in-ehime-and-shikoku-architectures-and-buildings-just-by-considering-high-airtightness-and-insulation
1雨が多い高知と雨が少ない高松の原因は? 四国 の気候と地形と建築 2日本に雨が降る仕組み ヒマラヤ山脈から偏西風によって東アジアへ運ばれる雨雲 3四国 の降雨の違いが建築を姿を変える 4雨を遠ざける方法、軒の深さ、雨よけ板、覆い屋
マウスオーバーか長押しで説明を表示。

四国 の降雨の違いが建築を姿を変える

こうした環境の違いは建築をはじめとした人と環境とのあいだのかたちに影響を与えていきます。軒の出や軒先の仕舞い方の違い、雨を受ける外壁の作り方の違いとなって表れてきます。

降雨量の違いと外壁 水切り瓦、したみの有無

高知の南東の室戸岬側は安芸瓦が有名で、江戸時代に愛媛県今治市の菊間瓦の瓦工を招いたのがはじまりと言われています。

吉良川町はこうした瓦を外壁から水を離すための水切り瓦に利用した外壁の町並みが残り、重伝建に指定されています。この水切り瓦の外壁はこの吉良川町が有名ですが、高知市や四万十の方でも見ることができ、高知県内全域に分布しています。

県内全域で雨が多いということもありますが、富の象徴という側面も見逃すことができない要素だと思われます。

高知県吉良町の水切瓦

こうした雨風への備えは山間部でも見られます。「住まいの伝統技術 著:安藤邦廣、乾尚彦、山下浩一」にはそうした備えの伝統的手法がいろいろと掲載されています。

高知県に近い徳島県の剣山周辺は奥祖谷をはじめとして急峻な斜面にへばりつく様に集落が形成されていることで有名です。風雨も強く標高も高いため冬は雪が降ります。

こうした地域では風雨によって土壁が洗い流されるだけでなく、土壁内の水分が凍結して体積が膨張して内部から破裂する可能性もあります。

そのため土壁を風雨や外気から保護するために外部に漆喰や木壁など、もう一層 外壁=したみを設けるのが一般的です。

この地域では他では珍しく竹を巻くことで土壁を断熱し保護します。寒さの厳しい長野県茅野のあたりでも似たように土壁を木板で寒さから保護する手法が見られ、竹に似た素材では葭を外壁にまわす手法が佐賀県で見られます、北国の雪囲いの設えに似ています。

文化遺産オンライン:徳島県小采家住宅 簑壁
佐賀県山口家住宅 葭壁
雪囲い 長野県/株式会社修景事業

こうした したみを雨掛かりに設けるのが多雨地帯以外でも一般的ですが、雨陰の少雨地域ではしたみがない建築が現れます。

多くは作業小屋のようなものですが少雨地域のため優先順位として低いために したみが設けられなかったのか?そもそも不要だと考えて考慮されていなかったのか?

理由はわからないですが日本では珍しい、どちらかという中国の乾燥地帯やヨーロッパの地中海地方で見られるような納まりとなっています。

文化遺産オンライン:讃岐の砂糖小屋
愛媛県砥部地方のみかん小屋
愛媛県砥部地方の醤油蔵

雨の影響を受けやすい場所、雨を遠ざける方法

降雨量の違いがわかりやすく出てくるのは軒の深さの違いです。

雨仕舞のしくみ 著:石川廣三」に出典されているスウェーデンの国立建築研究所の壁面に雨量計を取付けた実験によると、雨は壁面の頂部と両端部に多く当たり、中央部と下部にはほとんど当たらない、そして幅広い面よりも幅が短い面の方が雨が強く当たります。

参考:雨仕舞のしくみ p.36 図2.11
参考:雨仕舞のしくみ p.37 図2.12

このように軒がない建物においては外縁部に雨が強く当たります。高層ビルなどではこの風の影響が大きくなり、圧力差が雨水の浸入への大きな役割を果たすために様々な対策が講じられています。

住宅のような低層の建物でも外縁部が雨あたりが強くなる傾向は同じですので、角の納まりが水仕舞いにおいてはとても大事になります。

ハウスメーカーなどで時々、ガルバリウム鋼板や光触媒の窯業系の場合、軒がない方が雨水が外壁の汚れを流してキレイに保てて良いという説明がなされることがありますが、

汚れと雨の浸入はまた別のことなので、ご自分の地域の雨の強度とも相談しながら、どちらを優先するのか十分に注意して選択いただくのが良いと思います。

日本の雨の条件ではこうした雨がかりの大半は弱い風のなかで生じているので、軒を少しでも出すだけで大きく改善されます。「雨仕舞のしくみ 著:石川廣三」のなかで、軒の出と雨掛かり部の関係を次のような式で表しています。

tanθs = Cs / Uw = hs / p
θs:雨掛かり遮蔽角(軒の出と雨に濡れない範囲が構成する角度)
Cs:雨の落下速度に関する常数
Uw:地上高さの位置の平均風速
hs :実質的に雨に濡れない範囲
p :軒の出

tanが出てきたりして難しい式のように感じますが、書いていることはいたって簡単なことで雨の垂直方向の落下速度と水平方向に作用する風の平均速度の関係が、軒の出に対しての壁面の雨に濡れない範囲に影響を与えるということです。

そしてこの式を理解する上で大事なことは、先ほど書いたように日本の雨の条件では地上高さの平均風速は多くの場合、あまり大きな値を取らない、ということです。

まず大雨の場合で、かつ強風が吹くのは台風などの例外を除くと大雨を横に追いやられるほどの風が吹きことはあまりありません。そして風で大きく横に押しやられる普通の雨の場合でも、年間でそれほどの風が吹くことは平均風速が5m/sを超えることも半分以下で、さらに10m/sを超えるのも10%程度と大半は大した風が吹くわけではないのです。

ほとんどの風が弱いということは、ほとんどの雨は垂直に近いかたちで降ってくるということを意味しているので、ほんの15㎝程度軒を出しているだけで外壁面の雨掛かり部はほとんどカバーすることができるということを意味しています。

妻面の外壁面の耐候性を強化した「風と火と農家住宅」

風と火と農家住宅」ではスウェーデンの国立建築研究所の実験が明らかにした幅の狭い面:建物の妻面の風雨のダメージを考慮し、外壁の焼杉の厚さを他よりも厚く、およそ倍の厚さにしています。

この厚さは「愛媛で地域に寄り添い 木材 を使う」の記事にも書いたように焼杉の製造過程で他の既製品の外壁材の厚みに合わせるために削ぎ落していたものを、削ぎ落さずに工場でそのまま焼いてもらうことで厚く耐候性が高く、かつ無駄な廃棄物をなくすことで、山の経営者へその分より大きな利益を戻すことを可能にしています。

またケラバは合板を長手方向に持ち出すように貼ることで455㎜跳ね出し、外縁部の雨を遮蔽しつつ、軽やかな屋根形状を成立させています。

風と火と農家住宅/西妻面の外観

軒の深さ

四国で愛媛県の瀬戸内海側が雨だけでなく風も全国的におとなしい地域で、高知側が雨だけでなく風も強い地域となります。そのため先ほどの讃岐の砂糖小屋や愛媛県砥部のみかん小屋の軒の出を見ても短いです。

それに対して高知県のなかでも多雨地域の大豊町の集落のお堂を見てみると、中央のお堂に対して半間の縁側がまわり、さらにそこから半間の軒が出るかたちとなり、お堂本体を深く雨から守っています。

遠くから眺めると軽快で優美な屋根も近寄ると垂木も細かく野地板も何重にも重なりかなり重厚な造りとなっています。雨と同時に風への対処にもなっているのかもしれません。このように同じ四国でも気候・環境の違いで大きく形状が異なります。

愛媛県砥部町のみかん小屋
高知県大豊町-川井観音堂
強い風雨に備えた深く重厚な屋根

雨よけ板

こうした深い軒の場合でも側面のケラバ部はやはりダメージを受けやすくなります。こうした問題に対処する手法として外壁から離したケラバの下部に板を下げ降ろして、建物本体の外縁部へのダメージを軽減させています。

こうした手法は紀伊半島の多雨地域にも広がっており、地域によってはこの雨除け板を軒先部にも設けることで軒の出の方向ではなく垂直方向に軒を下げつつ、軒先もカバーして、ダメージの受けやすい軒先先端部も風雨から守っています。

高知県室戸市:雨除け板
高知県南国市:雨除け板
高知県大豊町_雨除け板
奈良県五條_雨除け板
奈良県十津川村_雨除け板(完全防備型)
三重県伊勢市_雨除け板(赤福本店)

高知の雨除け板の現代アレンジ「雨と風と光の暮らし」

高知県の四国山地と太平洋のあいだに位置する古い集落を敷地とする住宅のプロジェクト「雨と風と光の暮らし」において、この雨除け板を現代的にアレンジし直すことは出来ないか?と考えました。

雨除け板は軒先・ケラバの下端を板で下げることによって、雨が建物本体に近づかないように遮ることを目的としていて、その分、開口部が低く、狭くなりがちです。

そこで軒先部の雨除け板を透明な板とすることで採光を建物の奥まで確保しながら端部の耐候性、そして建物本体への雨を遮る能力を高めています。

高知県は台風の通り道となる可能性もあり、暴風時にさまざまなモノが飛んでくる可能性もあります。そのため機動隊の盾などにも用いられるポリカーボネート板を使用することで耐衝撃性を高めて安全性を確保するように配慮するよう考えています。

建物は小さな段丘の法面に位置し、風が屋根の上を通り抜けやすい敷地断面環境にありました。

そのためH型の平面プランにして、リビングダイニングに対して前庭、中庭を設けることで隣地や段丘に対してセットバックしてゆとりを取ることで、雨除け板はウィンドキャッチャーとして風を導く役割も果たすように考えています。

覆い屋

屋根仕舞いに限るものではないのですが、四国の山間部の社は本殿を覆い屋で覆っているものが多数見られます。

年代は古いものもあれば、最近の集落の過疎化の影響で修繕費を集落で集めることが出来ず、間に合わないために応急処置的に覆い屋を設けるケースもあります。

こうした覆い屋で本殿を覆う手法は熊本の人吉周辺にも見られ、山深い地域では必然的に辿り着く考えのように思えます。

熊本県人吉の覆い屋_老神神社
愛媛県砥部町高市の覆い屋_高森三島神社
愛媛県伊予市中山の覆い屋_山吹神社
高知県梼原町の覆い屋建築_三嶋神社

関連情報

https://colife3.com/5153-it-is-difficult-to-achieve-energy-saving-effects-in-ehime-and-shikoku-architectures-and-buildings-just-by-considering-high-airtightness-and-insulation
1雨が多い高知と雨が少ない高松の原因は? 四国 の気候と地形と建築 2日本に雨が降る仕組み ヒマラヤ山脈から偏西風によって東アジアへ運ばれる雨雲 3四国 の降雨の違いが建築を姿を変える 4雨を遠ざける方法、軒の深さ、雨よけ板、覆い屋
マウスオーバーか長押しで説明を表示。

ヒマラヤ山脈が降雨地帯と砂漠地帯をつくる

日本に雨が降る仕組み ヒマラヤ山脈から偏西風によって東アジアへ運ばれる雨雲

こちらの動画は、世界の風の流れ、雨雲の動き、気温の変化を知ることが出来るサイトWindfinderでの1週間の変化を映像化してみたものです。

映像を見るとアラビア海・ベンガル湾の海(インドを囲む海)で雨雲が発生して、ヒマラヤ山脈(中国・ミャンマー・インドのあたり)の方へと引き寄せられて、日本の南西あたりにある台湾を通ってそれが日本の方へと動いてくるのがわかります。

この動きの原因は地球が球形の惑星であること、アラビア海・ベンガル湾の海とヒマラヤ山脈、そして日本列島の地球上での配置にもとづいています。

次の映像を見るとヒマラヤ山脈の南側が真っ赤になっています。日中の太陽によって暖められた空気はどんどん上へと上がっていきます。その空気が上へ逃げてしまって空いたスペースに周囲から今度は空気が流れ込みます。

この力が世界の屋根ヒマラヤ山脈という巨大なスケールで起こるため、アラビア海・ベンガル湾の熱帯の海の温かく湿った空気がどんどんヒマラヤ山脈へと引き寄せられますが、高いこの山脈を湿った重い空気は超えることが出来ません。

この時日本列島、ヒマラヤ山脈の緯度が一つ重要な要素となります。日本列島、ヒマラヤ山脈がある30度~65度の中緯度帯は偏西風と呼ばれる西から東向きへと吹く風が吹いています。これは地球が球形をしていて、回転していることによって生じています。

球形をしているため回転軸に対して中心から直角をなす面、いわゆる赤道の部分が一番光を=熱を受けて、逆に回転軸のある北極・南極が一番光を=熱を受けません(実際には地球は軸が傾いているため季節変化が生まれ、その時々で関係はより複雑に変化します。)。

この赤道と両極との太陽からの光=熱量の差を均質にしようと流体(空気、水など)が動きます。地球が回転していなければ赤道から両極へ真っすぐ向かうのかもしれませんが、回転しているため慣性力が働きます。

この時の慣性力をコリオリの力と呼び、風の向きに対して時計回りに直角(北半球の場合は南から北に対して時計回りに直角なので、西から東)に働きます。

この西から東方向への力を受けた大気循環の風が「偏西風」です。この偏西風がヒマラヤ山脈という地球一番の吸引力を持つ山へ引き寄せられた雨雲を西から東へと運び、東南アジアや中国、そして日本へ運びます。

中緯度高圧帯は東南アジア・東アジアとアメリカ南部以外は乾燥して、世界の主要な砂漠が存在する地域 航空写真:pixabay を編集

通常、日本がある中緯度帯は赤道側の低緯度からの空気循環と高緯度からの空気循環が重なり合って高気圧になりやすく(中緯度高圧帯)乾燥して砂漠になりやすいそうなのですが、

ヒマラヤ山脈のモンスーンの影響で砂漠にならずに四季のはっきりした気候となっているそうです。

こうした緯度による気候の違いはアメリカ大陸を見るとはっきりします。

北アメリカのロッキー山脈、南アメリカのアンデス山脈が太平洋側からの湿った空気を遮り、乾燥した空気を裏側へ送り込みますが緯度によって裏側の状況は異なります。

低圧帯である熱帯付近のアマゾンはアンデス山脈の裏側やカナダのロッキー山脈の裏側でも緑が茂り、高圧帯であるロサンゼルスのロッキー山脈の裏側のニューメキシコやアリゾナ、アルゼンチンのアンデス山脈の裏側では砂漠、太平洋側には緑と違いがはっきりと表れています。

瀬戸内海の少雨・乾燥はアメリカ大陸のような明快さはありませんが、①本来なら乾燥する地域にあり、②そこにモンスーンによる雨雲が入り込むが、③山によって阻まれることで、その裏側が山からの乾燥した空気の流入もあり乾燥する、という地球全体の大気循環と地域の地形とが関係し合うことで生まれているのです。

山脈の裏側にできる雨の降らない乾燥地帯

上の地図は国土地理院の地図を標高1000m以上をオレンジ、2000m以上を赤で塗分けたものです。インドから中国にかけての赤色の塊がヒマラヤ山脈です。

下の地図でみると、ヒマラヤ山脈の赤い塊から右側(東側)へ伸びるオレンジの領域よりも下側(南側)に緑の地帯が、赤い塊、オレンジの塊に黄土色の地帯と明確に分かれているのに気づきます。

中緯度の偏西風はアジアではこの赤からオレンジの塊の山々をガイドとして海からの水が山々へと引き寄せられ、西から東へと流れていきます。

そのためユーラシア大陸の南側の海から暖められた湿った空気が高い山脈に阻まれて雨として降り注ぐ裏側には雨が到達出来なくなります。このような山脈に遮られたエリアが砂漠になったものには雨陰砂漠というわかりやすい名前がつきます。

西日本に春先にユーラシア大陸から飛来する黄砂の砂はこのヒマラヤ山脈からの裏側に生じた雨陰砂漠であるタクラマカン砂漠やゴビ砂漠の砂が、偏西風に乗って日本まで届いているものです。

このように日本に降る雨や砂はインドから日本までのアジアの地形や気候に大きな影響を受けています。日本の生活は貿易による経済のつながりだけではなく、地球の大気の動きによってもつながっていることが見えてきます。

四国山脈 がつくる 降雨地帯と雨陰砂漠

先ほどのインド・中国からの視点を日本にぐっと寄って、四国の雨雲の様子を見たものが上の映像です。太平洋側から流れてきた雨雲が石鎚山を主峰とした石鎚山系・四国山地に当たり山地の南側に雨を降らせます。(その一方で裏側に当たる北側は雨が降っていないのが見えます。)

この傾向が北の香川を中心とした瀬戸内側と南の高地を中心とした太平洋側で大きく降水量が異なる特徴を作り出します。

四国山脈を境に切り替わる少雨地帯と豪雨地帯、河川の経路が左右する利水環境

上の図が国土地理院の標高を色分けした地図を四国を中心に寄ったものになります。

下の図が四国の年間降雨量の分布を示したものになります。上の図のオレンジ(標高1000m)が集まっている四国山地の連なりを境に降水量が2000㎜以上、多いところでは3000㎜を超える日本でも有数の多雨地帯と、日本の平均降水量を1700㎜下回る少雨地帯に分かれます。

高松は1000㎜程度と少雨地帯のなかでも特に雨が少ない都市部であり、さらに松山や徳島には重信川や吉野川という大河川によって、多雨地帯に降り注いだ雨が都市部までもたらされますが、高松にはそういった大河川がありません。

愛媛県の新居浜や西条のように四国山地と隣接していないため四国山地北斜面からもたらされる豊富な湧水もまた徳島へと向かう吉野川によって分断されてしまいます。

山脈によって生まれる気候・文化の違い

まだ自動車や道路が発達していない時代は山越えは大変な作業でしたから、山と谷のつくりだす圏域がひとつの文化圏となっていきます。

さらにより大きな地形と気候の影響で育てやすい作物や成長速度や旬の季節が変わっていくことで文化圏のバリエーションが多様化していきます。こうした地形や気候の違いに、江戸時代の藩ごとの自給経済の仕組みが組み合わさることで、独自の文化圏がより濃く熟成していく機会を得ていたと言えます。

急峻な産地を中央に持ち、海も内海と外洋という大きく異なる性格の海があり、そして大阪・京への動脈に面する地域とそうでない地域といった社会的なレイヤーもまた、多様化へ大きな力を与えています。

このような気候と地形によってもたらされる環境の違いが四国という島に多様な文化の生態系を作り出しています。四国の伝統民俗芸能の分布や特徴は「四国の多様な お祭り ・ 芸能 Diversity of Shikoku’s intangible culture and festivals」でも紹介しています。

四国 の降雨の違いが建築を姿を変える

こうした環境の違いは建築をはじめとした人と環境とのあいだのかたちに影響を与えていきます。軒の出や軒先の仕舞い方の違い、雨を受ける外壁の作り方の違いとなって表れてきます。

降雨量の違いと外壁 水切り瓦、したみの有無

高知の南東の室戸岬側は安芸瓦が有名で、江戸時代に愛媛県今治市の菊間瓦の瓦工を招いたのがはじまりと言われています。

吉良川町はこうした瓦を外壁から水を離すための水切り瓦に利用した外壁の町並みが残り、重伝建に指定されています。この水切り瓦の外壁はこの吉良川町が有名ですが、高知市や四万十の方でも見ることができ、高知県内全域に分布しています。

県内全域で雨が多いということもありますが、富の象徴という側面も見逃すことができない要素だと思われます。

高知県吉良町の水切瓦

こうした雨風への備えは山間部でも見られます。「住まいの伝統技術 著:安藤邦廣、乾尚彦、山下浩一」にはそうした備えの伝統的手法がいろいろと掲載されています。

高知県に近い徳島県の剣山周辺は奥祖谷をはじめとして急峻な斜面にへばりつく様に集落が形成されていることで有名です。風雨も強く標高も高いため冬は雪が降ります。

こうした地域では風雨によって土壁が洗い流されるだけでなく、土壁内の水分が凍結して体積が膨張して内部から破裂する可能性もあります。

そのため土壁を風雨や外気から保護するために外部に漆喰や木壁など、もう一層 外壁=したみを設けるのが一般的です。

この地域では他では珍しく竹を巻くことで土壁を断熱し保護します。寒さの厳しい長野県茅野のあたりでも似たように土壁を木板で寒さから保護する手法が見られ、竹に似た素材では葭を外壁にまわす手法が佐賀県で見られます、北国の雪囲いの設えに似ています。

文化遺産オンライン:徳島県小采家住宅 簑壁
佐賀県山口家住宅 葭壁
雪囲い 長野県/株式会社修景事業

こうした したみを雨掛かりに設けるのが多雨地帯以外でも一般的ですが、雨陰の少雨地域ではしたみがない建築が現れます。

多くは作業小屋のようなものですが少雨地域のため優先順位として低いために したみが設けられなかったのか?そもそも不要だと考えて考慮されていなかったのか?

理由はわからないですが日本では珍しい、どちらかという中国の乾燥地帯やヨーロッパの地中海地方で見られるような納まりとなっています。

文化遺産オンライン:讃岐の砂糖小屋
愛媛県砥部地方のみかん小屋
愛媛県砥部地方の醤油蔵

雨の影響を受けやすい場所、雨を遠ざける方法

降雨量の違いがわかりやすく出てくるのは軒の深さの違いです。

雨仕舞のしくみ 著:石川廣三」に出典されているスウェーデンの国立建築研究所の壁面に雨量計を取付けた実験によると、雨は壁面の頂部と両端部に多く当たり、中央部と下部にはほとんど当たらない、そして幅広い面よりも幅が短い面の方が雨が強く当たります。

参考:雨仕舞のしくみ p.36 図2.11
参考:雨仕舞のしくみ p.37 図2.12

このように軒がない建物においては外縁部に雨が強く当たります。高層ビルなどではこの風の影響が大きくなり、圧力差が雨水の浸入への大きな役割を果たすために様々な対策が講じられています。

住宅のような低層の建物でも外縁部が雨あたりが強くなる傾向は同じですので、角の納まりが水仕舞いにおいてはとても大事になります。

ハウスメーカーなどで時々、ガルバリウム鋼板や光触媒の窯業系の場合、軒がない方が雨水が外壁の汚れを流してキレイに保てて良いという説明がなされることがありますが、

汚れと雨の浸入はまた別のことなので、ご自分の地域の雨の強度とも相談しながら、どちらを優先するのか十分に注意して選択いただくのが良いと思います。

日本の雨の条件ではこうした雨がかりの大半は弱い風のなかで生じているので、軒を少しでも出すだけで大きく改善されます。「雨仕舞のしくみ 著:石川廣三」のなかで、軒の出と雨掛かり部の関係を次のような式で表しています。

tanθs = Cs / Uw = hs / p
θs:雨掛かり遮蔽角(軒の出と雨に濡れない範囲が構成する角度)
Cs:雨の落下速度に関する常数
Uw:地上高さの位置の平均風速
hs :実質的に雨に濡れない範囲
p :軒の出

tanが出てきたりして難しい式のように感じますが、書いていることはいたって簡単なことで雨の垂直方向の落下速度と水平方向に作用する風の平均速度の関係が、軒の出に対しての壁面の雨に濡れない範囲に影響を与えるということです。

そしてこの式を理解する上で大事なことは、先ほど書いたように日本の雨の条件では地上高さの平均風速は多くの場合、あまり大きな値を取らない、ということです。

まず大雨の場合で、かつ強風が吹くのは台風などの例外を除くと大雨を横に追いやられるほどの風が吹きことはあまりありません。そして風で大きく横に押しやられる普通の雨の場合でも、年間でそれほどの風が吹くことは平均風速が5m/sを超えることも半分以下で、さらに10m/sを超えるのも10%程度と大半は大した風が吹くわけではないのです。

ほとんどの風が弱いということは、ほとんどの雨は垂直に近いかたちで降ってくるということを意味しているので、ほんの15㎝程度軒を出しているだけで外壁面の雨掛かり部はほとんどカバーすることができるということを意味しています。

参考:雨仕舞のしくみ_図4.4
参考:雨仕舞のしくみ_図4.4 
平均風速の違いと必要な軒の出

妻面の外壁面の耐候性を強化した「風と火と農家住宅」

風と火と農家住宅」ではスウェーデンの国立建築研究所の実験が明らかにした幅の狭い面:建物の妻面の風雨のダメージを考慮し、外壁の焼杉の厚さを他よりも厚く、およそ倍の厚さにしています。

この厚さは「愛媛で地域に寄り添い 木材 を使う」の記事にも書いたように焼杉の製造過程で他の既製品の外壁材の厚みに合わせるために削ぎ落していたものを、削ぎ落さずに工場でそのまま焼いてもらうことで厚く耐候性が高く、かつ無駄な廃棄物をなくすことで、山の経営者へその分より大きな利益を戻すことを可能にしています。

またケラバは合板を長手方向に持ち出すように貼ることで455㎜跳ね出し、外縁部の雨を遮蔽しつつ、軽やかな屋根形状を成立させています。

風と火と農家住宅/西妻面の外観

軒の深さ

四国で愛媛県の瀬戸内海側が雨だけでなく風も全国的におとなしい地域で、高知側が雨だけでなく風も強い地域となります。そのため先ほどの讃岐の砂糖小屋や愛媛県砥部のみかん小屋の軒の出を見ても短いです。

それに対して高知県のなかでも多雨地域の大豊町の集落のお堂を見てみると、中央のお堂に対して半間の縁側がまわり、さらにそこから半間の軒が出るかたちとなり、お堂本体を深く雨から守っています。

遠くから眺めると軽快で優美な屋根も近寄ると垂木も細かく野地板も何重にも重なりかなり重厚な造りとなっています。雨と同時に風への対処にもなっているのかもしれません。このように同じ四国でも気候・環境の違いで大きく形状が異なります。

愛媛県砥部町のみかん小屋
高知県大豊町-川井観音堂
強い風雨に備えた深く重厚な屋根

雨よけ板

こうした深い軒の場合でも側面のケラバ部はやはりダメージを受けやすくなります。こうした問題に対処する手法として外壁から離したケラバの下部に板を下げ降ろして、建物本体の外縁部へのダメージを軽減させています。

こうした手法は紀伊半島の多雨地域にも広がっており、地域によってはこの雨除け板を軒先部にも設けることで軒の出の方向ではなく垂直方向に軒を下げつつ、軒先もカバーして、ダメージの受けやすい軒先先端部も風雨から守っています。

高知県室戸市:雨除け板
高知県南国市:雨除け板
高知県大豊町_雨除け板
奈良県五條_雨除け板
奈良県十津川村_雨除け板(完全防備型)
三重県伊勢市_雨除け板(赤福本店)

高知の雨除け板の現代アレンジ「雨と風と光の暮らし」

高知県の四国山地と太平洋のあいだに位置する古い集落を敷地とする住宅のプロジェクト「雨と風と光の暮らし」において、この雨除け板を現代的にアレンジし直すことは出来ないか?と考えました。

雨除け板は軒先・ケラバの下端を板で下げることによって、雨が建物本体に近づかないように遮ることを目的としていて、その分、開口部が低く、狭くなりがちです。

そこで軒先部の雨除け板を透明な板とすることで採光を建物の奥まで確保しながら端部の耐候性、そして建物本体への雨を遮る能力を高めています。

高知県は台風の通り道となる可能性もあり、暴風時にさまざまなモノが飛んでくる可能性もあります。そのため機動隊の盾などにも用いられるポリカーボネート板を使用することで耐衝撃性を高めて安全性を確保するように配慮するよう考えています。

建物は小さな段丘の法面に位置し、風が屋根の上を通り抜けやすい敷地断面環境にありました。

そのためH型の平面プランにして、リビングダイニングに対して前庭、中庭を設けることで隣地や段丘に対してセットバックしてゆとりを取ることで、雨除け板はウィンドキャッチャーとして風を導く役割も果たすように考えています。

覆い屋

屋根仕舞いに限るものではないのですが、四国の山間部の社は本殿を覆い屋で覆っているものが多数見られます。

年代は古いものもあれば、最近の集落の過疎化の影響で修繕費を集落で集めることが出来ず、間に合わないために応急処置的に覆い屋を設けるケースもあります。

こうした覆い屋で本殿を覆う手法は熊本の人吉周辺にも見られ、山深い地域では必然的に辿り着く考えのように思えます。

熊本県人吉の覆い屋_老神神社
愛媛県砥部町高市の覆い屋_高森三島神社
愛媛県伊予市中山の覆い屋_山吹神社
高知県梼原町の覆い屋建築_三嶋神社

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