Book review: 森林飽和 国土の変貌を考える 著:太田猛彦

緑で青々と茂った日本の山々が作り出す風景、実はこの風景は400年ぶりの状況だったとしたら、信じられるだろうか?
そして海岸線に広がる砂浜と松林、これも400年前からの山々から緑が失われていっていた過程によるもので、緑が戻った現在、失われていっているとしたら、信じられるだろうか?
「森林飽和」 過去400年のなかで日本の森林を取り巻く状況は大きく変わった。今目の前にある 森林 は日本の歴史のなかで、非常に特異な状況のものであり、はじめてのことを経験している。(そういう意味ではこの400年、森林側にとってはじめてづくしの激動の歴史である)

江戸時代の 森林 本当の里山の姿

コンラッド・タットマン著「日本人はどのように森をつくってきたのか」でも語られている通り、江戸時代は日本の森林の危機的な状況にあったが、保護政策と積極的な植林による人工造林のおかげで山林の壊滅は免れていた。しかしそれは緑が生い茂る山々ではなく、はげ山と化したアカマツが目立つ風景だった。私たちが「里山」と呼ぶ風景の当時の姿である。現在の砂浜の海岸線を構成する一因はこのはげ山からの土砂の堆積によっている。戦後の写真を見ると飛砂という海岸の砂が風で内陸に押し寄せる被害が各地で起こっていたことが記録されており、ひどいところでは家屋が砂に埋まっている。それが今度は緑が生い茂り、土砂の流出がなくなり、海岸線は波によって侵食されて後退したり、河床が下がることで橋の橋脚の基礎が露出したり、河からの取水口よりも河が低下して取水困難になり得る事態になっている。(代わりに地下水への浸透は増している可能性が指摘されているが、工場や一部農地を除くと現代日本人の主な水源は地下ではなくなっている。)

森林 と土砂災害 森林飽和がもたらすもの

土砂の流出が減ったということは、見方を変えると土砂災害が減ったということである。これは統計的にも確かめられている。木々が根を張ってしっかりと土を保持してくれることで、大雨でも土は流されない。これは広葉樹林でも、針葉樹林でも同じである。広葉樹林の方が保水力が高くて良いという話を聞くが、針葉樹林だから土砂災害が起こるということはない。これも実験や統計で確かめられている。

土砂災害が減ったからと言っても、無くなったわけではない。土砂災害は①表面侵食②表層崩壊③深層崩壊④地すべりの大きく4種類に分類される。このうち①、②が現在減っているものになる。悪徳な業者が皆伐を行った後に大雨が降ると①、②が起こる可能性があるが、ちゃんと理解した業者がすれば、皆伐後でも①、②は抑えられる。

問題になるのは③、④でこれは土の下にある基岩が時とともに風化しひび割れ、そこに水が入り込むことで生じるため、木々がしっかり根を張っていても関係ない。昔から周期的に起こっており、③、④が起こると、①、②が起こっていない分だけ貯まっていた土砂やバイオマスが一気に放出されるため被害も大きくなる。このため雪崩防止と同じように、意図的に被害がないかたちで崩壊させる必要も出て来ている。

現在の 森林 飽和 を支えている 私たちの暮らし方

この現在の森林飽和を支えてきたのが

①エネルギー源の転換 薪からガス・電気へ

②建築資材としての木材の国産材から輸入材への転換

である。戦後は花粉症の原因ともなっているスギの大量植林がなされたことからもわかるように、戦時中の特別需要によって山々は限界まで使い尽くされてはげ山となっていた。そのため、戦後の住宅需要を国産材で賄うにしても成長した木材は乏しく、仮に国産材で応じていればあっという間に限界を越えていただろう。木材を輸入材に頼ることで戦後復興と高度成長期は支えられた。これは代わりに海外の森林資源/原生林を持続的な観点からの適切なコストや技術を鑑みない略奪をし破壊した結果でもあった。

現在、持続可能な社会を目指すなかで森林資源に改めて注目が集まっている。建築分野でも法改正によって木造の高層建築が可能となり、エネルギー源としてのバイオマスも脚光を浴びる。しかし江戸時代の荒廃・はげ山の状況、そして江戸時代から人口はおよそ4倍(3000万→1.2億)に増え、エネルギー消費は人口1人当たりで10倍近く(300-400W→3500W)になっている現状で、国土をどのように管理していくのか?を考えずに、グリーンだ、エコだと言って、都市が山林の木材資源を収奪している場合ではないと思われる。

また著者の緑で生い茂った現在の里山を「里山跡地」だという指摘は持続可能ということがどういうことか?改めて考えさせられる。奥山化していっている里山をこれからどうすべきなのか?山へ返すのか?里に戻すのか?選択が迫られている。

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