脳から 個性 と あこがれ を見直す、自分たちに馴染む家づくりとは?
片付けから個性を考えてみる
はじめに述べたようにヒアリングしたすべての方が「家がもっと狭くてよかった」といい、その多くの方は理由として「片付け」の大変さを挙げていました。
ただし同じ「片付けの大変さ」という言葉でも、中身は千差万別です。
- 単純に広いために時間が掛かることに不満を持っている人もいれば、
- 片づけた側から散らかって片付けが終わらないことに不満を持っている人、
- 自分の片付け能力の限界を超えた規模のため片付けができないことに不満を持っている人、
- 広いがゆえに片付いていない白無地の布の一点の染みのように粗が目立ち気になることに不満を持っている人、
このように多種多様です。片づけに限らずですが、自己啓発 や 家づくりや間取りのHow to 本 を読むと万能薬のようなアイディアが載っていますが、これまでの設計の経験から考えると、そんな都合の良いものはなくて、自分に合ったやり方で習慣化できる方法を選ぶことが一番大切だと思います。
潔く割り切れている後悔を、記憶の中に過去のこととして片づけられている後悔と先ほど呼んだように、記憶と関わりが深い活動です。
「片付け」は生活の基本的な活動の一つになっているので見過ごされてしまいがちですが、脳のさまざまな領域を連携させて行うプロセスであり、感知・モチベーション維持・認知・分析・記憶といろいろな能力が求められ、家づくりにおける自分たちやあこがれへの理解とも関わりが深い活動です。
片付け とは、その人の個性が表れやすい活動の一つと言えると思います。
片付けの大変さ という理由は、あこがれが消化しきれていない=片づけられていないこと、仕舞われていないことの象徴なのかもしれません。
脳科学から片付けを考えてみる
「片づけ脳」という片付けを脳科学の観点から解き明かしている二つの本「生き方上手になるための「片づけ脳」の育て方 著:篠原 菊紀」「片づけ脳──部屋も頭もスッキリする! 著:加藤 俊徳」をまとめると、次のようなステップが片付けには必要だとまとめられます。
- 汚れや整理整頓されていない状態を不快に思う:整理整頓されている状況に対しての感受性
- 行動にスイッチを入れる:感知した雰囲気のモチベーションを高められる敏感さ
- ものごとを分類して、整理する:状況を冷静に把握し理解する能力
- 空間・時間のなかに、分類したものを配置する計画を立てる:実行に必要な要素を抽出する能力
- 計画を実行する段取りを考える:抽出された要素をもとに実行の計画を立てる能力
- 計画を実行する:実行力
- 実行結果を評価する:記憶・習慣化する能力
例えば不快に思うだけでも、スイッチが入らなければ、片付けは始まらないですし、ものごとを分類し、計画を立てる能力があっても、不快に思わなければ、片付けは自主的にははじまりません。
こうした違いが、「片付いている」という感覚の違い・価値観の違いとなって具体的に暮らしの中のモノや道具の配置となって表現されてきます。
例えば、
- 収納のなかに仕舞っていないとダメな人:整理整頓への感受性がしっかりしているので、出しっぱなしに強い不快感を覚える
- 使う道具は目に触れられる状態にしていないとダメな人:スイッチを入れてモチベーションを高める能力が低いので、視覚的にスイッチを入れる必要がある
- 大きさ順や色別などルールに従ってないとダメな人:分析・分類能力が高く、分類の達成感に浸っている
- 他人の片付け方に不満を感じず柔軟に対応する人:整理整頓に対する感受性が低いため気にならない
どの部分に重要性を置くタイプか、ストレスを感じるタイプかで同じ「片付け」でも全然違うものになってくるのです。こうした意識されない癖や習慣によって行動される「当り前」となっているものが、実は家づくりで暮らしを考える上で、非常に重要な部分になります。
こうした感覚は当り前過ぎて、重要視されることなく、見過ごされることが多いため、家づくりにおいて後悔につながる可能性が高い落とし穴となっていると思います。
特にそのステルス性ゆえに家づくりをしているときの相手の建築家や設計者、営業さんに、日々のしぐさや行動から伝わっていなければ、自ら意識的に提示しなければ見過ごされてしまいます。
こうした観点からも家づくりにおいては、そうした素がお互いに見せることができる信頼関係が非常に大事になります。
心理学や脳科学がつたえる個性 – 性格診断・認知テストの活用
自分を理解していることが大事、と言われても、自分のことは実は自分が一番わからない!
というのが、多くの人の感想ではないかと思います。家づくりに対して、どのようなことに気を掛けて、相手に伝えなければならないのか、迷ってしまうことも多いと思います。
こうしたときに便利なのが心理学で使われる性格診断や認知テストです。空間認知テストや質問に答えることで、自分の特性を占い感覚で使うことができます。
(※専門家の診断を受けるのではなく、個人で使う分には実際に占い程度の信用度で使うのが良いと思います)。
最近ではMBTI(Myers-Briggs Type Indicator)の基本的な考え方の紹介という性格診断として流行しているカール・ユングの心理学をもとにしたものが有名でしょうか?同じようにユングの心理学をベースに脳の使い方をタイプ分けしたジル・ボルト・テイラーのWhloe Brain もあります。
無料で手軽にやれるものとしては16Personalities性格診断テストがあり、診断のベースとなる考え方は上記二つとはまた異なりますが、似たような表示形式での結果が出力されるので、コミュニケーションの出発点として利用するには一つの手ではないかと思います。
私がカール・ユングの心理学をもとにした診断(俗にいうユングのタイプ論)が家づくりをやる上で適していると感じているのは、
ものごとの知覚(感覚・直観)や判断(思考・感情)や方向性(外向的・内向的)という人の行動の基本的な要素をもとに人の特徴を分類して、それらをどのように組み合わせているか?また長所短所とどう向き合っているか?向き合える可能性があるか?ということを整理しやすい点、
固定的な性質として結果を捉えるのではなく、自己成長・変容していくダイナミックなものとして、診断結果を捉えている点、
その基本的な要素を脳科学を通して、具体的な脳や身体の解剖学的な視点から捉えることができる点
になります。
コラム:家づくりにおける空間認知能力
住宅・建築の設計をしている際に、お施主様の空間認知能力というのはさまざまであることを実感します。これは図面を読める力の高低からCGへの理解力といったこちらからのプレゼンテーションに対する反応の仕方の違いから感じる面と、お施主様のご要望の表現の仕方の違いから感じる面とあります。
家づくりがはじまってから空間認知能力を鍛える必要はありませんが、自分の空間認知能力がどうなっているのか?を知っておくことは、どのような空間・間取りが自分に合いやすいかを知る手掛かりとなると思います。脳科学のなかでも空間認知を司る脳の部位はMBTIなどで表現される思考や感情、感覚、直観のどれかに局在するものではないものとされているように、この能力はタイプと関係なく備わっていたり、備わっていなかったりするものだと思います。
空間認知のテストとして代表的なものに次のようなものがあります。

参考:生き方上手になるための「片づけ脳」の育て方 著:篠原 菊紀

参考:生き方上手になるための「片づけ脳」の育て方 著:篠原 菊紀
どうでしょうか?すぐに答えがわかったでしょうか?
建築のような職業上こうした能力が必須の人たちはテストの結果が良い人が多いです。日々使っているかいないかはやはり大きいと思います。
空間認知能力が高い人は寸法感覚の精度が高く、部屋を立体的に使う能力に長けている人が多いです。要望としても具体的な寸法を指定して家具のリクエストをされます。特に収納棚を細かく高さの違いや幅の違いを指定して、どの棚になにを、どの向きで入れるのかを絵にして持って来られる印象を持ちます。
逆に低い人は寸法感覚が大雑把で、部屋を平面的に使う方が多い印象です。具体的なかたちや大きさというよりは、ラベリングされた名前や日々の動作でモノや空間を把握されている方が多く、数値を尋ねるのではなくてどのような生活をされているのかを順を追ってヒアリングすると、どこにどのような大きさの家具が必要であるかの大枠がわかる印象を持ちます。
こうした感覚の違いが設計段階での部屋のつながり・配置に対しての要望の違いとなって表れてくることがあります。コラムの最初で書いたように図面やCGの読み込みが上手くいってない場合、もしくは興味がなくて見落としていた場合、要望として設計者へ示すことがなく、実際に工事がはじまってから気づくというケースにつながります。
最近はVRで体験していただくと、工事前の段階で具体的に部屋の大きさや配置をイメージしてもらえるので、こうした危険性は減ってきましたが、設計している側としては、お施主様がどこまでこちらの提案を理解しているのか、というのは、いつも不安になる部分です。AIを使ったCG作成や間取り提案が進んできていますが、こうしたお施主様自身が使うには受け手側の理解力がボトルネックとして残り続けそうだと感じています。
もし図面やCGから自分の暮らしをイメージできていないときは、素直に建築家・設計者にお伝えいただくか、イメージ出来る提案をしてくれる建築家・設計者を改めて探して、円滑なコミュニケーションを行える相手と家づくりをすることをお勧めいたします。