愛媛の木と気ごころの動くコンテナプロジェクト
Trees, Weather, Feelings and Energy Container Project in Ehime

クライアントは災害時の復興住居への転用が可能なコンテナによるトレーラーハウスの開発を望んでいらっしゃいました。平時はZEH基準を満たし、太陽光パネルを積んで、自立型のコテージやレンタルスペースのように使用し、非常時に必要な物資を積み込み、被災地へ駆けつけられる、そういった仕組みを目指していました。計画はそうしたトレーラーハウスのモデルルームを兼ねた自社オフィスと住居の複合物です。
トレーラーハウスは大きく車検が取れるものと、車検が取れるものより大型のもの(専門的用語で言う道路運送車両の保安基準第二条の緩和を適用したもの)とで、大きく分かれます。ざっくり幅が2.5m、地面からの高さが3.8m、連結部から後ろ側の端までが12m以上のものは大型ものになります。
家族が住まえる復興住宅にしたい、というご要望でしたので、今回は車検が取れるサイズよりも大型のトレーラーハウスを計画することに決めました。

木造トレーラーハウス
計画がはじまった当初は海洋コンテナを改造・拡張して大型のトレーラーハウスにしたいという話しでスタートしましたが、平時の利用形態、トレーラーハウスとしての法的条件を整理していくなかで、木造コンテナとして製作した方が自由度が高いのではないか、という結論に至りました。
アメリカなどでの大型のトレーラーハウスも2×4材で木造で製造されているケースが多く、奥行は長くなりますが、幅はそこまで広くはならない、そして断熱性能を考慮すると必然的に屋根厚・壁厚・床厚が大きくなるといった条件から、木造にするデメリットが小さいことがわかりました。


炭素固定コンテナとしての木造コンテナ
木造にするもう一つのメリットは炭素固定として地域の木材資源を有効活用できることでした。防災コンテナとしての役割と同時に炭素固定コンテナとして役割を兼ねられるということです。
コストの問題もありますが、ウッドファイバーやセルロースファイバーのような木質断熱材にすればより木材資源活用の効果が高まります。また愛媛などの暖かい地域での復興住居への転用を想定したコンテナは、被災地が寒冷地である可能性を考慮すると、通常よりも高めの断熱性能を考えることには意義があるように思えます。

可動式格子戸
トレーラーハウスで環境性能を考える上で一つ課題になるのは日射遮蔽をどうするか?という点ではないかと思います。断熱性・気密性が高まればそれだけ太陽光のコントロールの重要性は増します。
幅や高さの寸法制限がありますので軒や屋根を大きくつくることが難しく、走行中にも邪魔になります。またどの方位に向くかも敷地条件次第なので、最初に設置した場所に最適化した結果が、次の場所にとっての最適解とは限らない、というトレーラーハウス特有の課題もあります。


この課題に対して、可動式の突き上げ式の格子戸を設けることで対処することとしました。縦格子とすることで戸を下ろしているときは西日や朝日のような高度の低い正面からの光に対処できるようにし、突き上げれば南面からの日差しをカットする下屋の役割を果たします。
格子戸ですので下ろしていても閉塞感を感じずに、外からの光を柔らかく内部に導いてくれます。


セミモノコック構造による通風計画
構造計画は短辺方向は走行中の風雨の影響も考慮し両端でしっかりと耐力要素を取り、長辺方向は長さを活かして腰壁と垂壁で耐力要素を確保し、屋根面と床面に剛性をもたせた、セミモノコック構造とすることで、開放感・通風性・内装レイアウトの自由度と構造の両立をはかっています。
断熱性を確保するための壁・床・屋根を、柱・梁・面材によるセミモノコック構造で構成することで、断熱・気密性をしっかりと確保した構法となっています。
移動する空間という通常とは異なる環境の変化に対して、断熱・気密による安定性と通風・採光による柔軟性の両面を確保し、環境に適応する移動空間を目指しました。
家具スケールで多様な組み換えを可能とする内装計画
災害時の復興住居として利用可能にするという課題からトレーラーハウスという狭小空間のなかに家族が住まうだけのスペースを、通風や採光を妨げずに、どのように配置していくか?が求められました。
また家族と一口にいっても、どのような家族構成で利用するかは、実際に使用されるまでわかりません。ゆえに、それに備えた可変性・柔軟性も求められます。


まずスペースの確保は天井高さを1900と2600の二つの高さに分け、低い方の上部を収納や寝台としました。この低い天井と垂れ壁は短辺方向の構造要素としても利用し、長手方向の間取りの可変性を担保しています。
机と寝台を兼ねた幅2060の大型の家具を製作し、天井の寝台と合わせて最大で3段ベッドとして利用可能なユニットとしました。天井と家具のあいだに襖や障子を嵌めたり取ったりすることで空間のつながりに柔軟性を与えています。
収納や寝台を空間の上下へ配分することで、開口部を設けた中段の高さをフリーにして、通風と採光の経路を確保しています。


家具は木製とすることで、現地での加工やDIYでの追加造作への対応をしやすくし、使い古して馴染ませる使い方を想定しています。
モデルハウスとしての利用時はオフィス兼住居の複数用途を、これらのスペースの増床と可変性・柔軟性によって、トレーラーハウスのなかに入れ込んでいます。

利用時/オフィススペース、執務時レイアウト。格子戸を上げて、開放感を感じながら執務。-1024x576.webp)
利用時/オフィススペース、会議レイアウト。格子戸を下げて、会議に集中。-1024x576.webp)

40ftコンテナと同等の奥行にそれよりも広い幅をもつこのコンテナは、トレーラーハウスとしては大型の部類に属しますが、延床29.35m2(約8.9坪)という広さは戦後の最小限住居としてつくられた建築家/増沢洵さんの自邸(9坪ハウス(建築面積9坪)としてリバイバルされています)の延床49.5m2(15坪)よりも小さく、住居という観点から見ると狭小です。
そんな狭小の空間に身を寄せ合わなければならない状況下において、少しでも心を落ち着かせて、自然が脅威の対象であるだけでなく、恵みをもたらすものであることを感じ取れ、人と人との絆の意味を捉え直す一助となる、そうした建築となることを願っています。
建築データ
所在地:愛媛県、四国
用途:トレーラーハウス
構造:木造
規模:1階建て
建築面積:29.35m2(8.9坪)
延床面積:29.35m2(8.9坪)
設計期間:2024/04~
クライアント:株式会社BOR