海と青石の木組み・木積み 佐田岬の地形と自然からイメージした木製家具
オフィスの家具の設計のプロジェクト。
敷地は佐田岬の先端に位置する愛媛県伊方町三崎の支所内。クライアントは地元出身のITベンチャーを東京で立ち上げた経営者、過疎化が進む地元の雇用促進のためのサテライトオフィスを役場支所の未利用スペースに開設する。クライアントは地元の木材を利用した家具を希望されていた。
内装設計は別の設計事務所が担っており、役場支所の未利用スペースを使うという設計条件から「focus/集中」と「relax/癒し」という異なる性格を持つ二つのオフィススペースを用意する設計となっていた。
「focus/集中」と「relax/癒し」には、それぞれ約7.5m×5.4mの部屋に対して1.6m×4.8m、1m×2mという大きなテーブルが求められた。この二つのテーブルがこのオフィススペースの性格を決める大きな存在となり得ると思われた。地域のことを考えるクライアントの思い受け継ぎながら、佐田岬という場所がもつ特徴をどのようにテーブルへと落とし込むか?が大きな課題となった。
佐田岬半島の緑色片岩(伊予の青石)と地形(湾と海崖)
クライアントの地元への思いを汲み取るために、まず佐田岬のリサーチをはじめた。愛媛県の地元一般人にとっては魚がおいしい、細い半島の急斜面に空からも海からも太陽を受けられるミカン畑が敷き詰められた場所、建築家にとって佐田岬は伊予の青石と呼ばれる緑色片岩の石積みの集落群の場所として有名である。
佐田岬半島は西日本の内帯(瀬戸内海側)と外帯(太平洋側)がぶつかる中央構造線断層帯が本州から四国を通り、九州へと抜けていく先端部に位置し、この半島と九州側の佐賀関半島のあいだの豊予海峡が太平洋と瀬戸内海を隔てており、潮が早く好漁場として古くから有名である。(反対側の徳島県の鳴門海峡もまた中央構造線断層帯に位置し、鳴門の渦潮で有名な好漁場である。)
佐田岬の北向きの湾を作り出したリアス式海岸
中央構造線断層帯付近は急傾斜な山々で有名であり、佐田岬もまた細い尾根が東西に真っすぐに伸びた急峻な地形が多い。佐田岬の急峻な地形は山と海との相互作用によってもたらされており、海面上昇とともに山が海に沈んだ沈水海岸地形であり、そのため本来山裾の緩やかな部分が海に沈み、地上には急峻な部分が残った。この沈水海岸地形の代表格がリアス式海岸である。
北向きのリアス式海岸と南向きの海崖が交わる三崎
佐田岬半島のリアス式海岸地形の特徴は、東西に延びる尾根に対して北向きの斜面に多く見られ複雑な湾を形成している、逆に南向きの斜面には真っすぐに伸びた海崖が発達しており、北と南で大きく異なった景観を形成している。そのため、自然の防波堤をなすリアス式の湾を中心とした北側の海岸地形沿いに古くからの集落が発達していった。三崎はややそのなかでも特殊な地形を形成しており、東西に伸びた尾根が先端部で二つに分かれた付け根に位置しており、分かれた南斜面を形成する佐田岬灯台へと延びる斜面はそそり立つ海崖を形成し、逆に北斜面はリアス式海岸を幾重にも形成し、両方の地形が交わる。
伊予の青石(緑色片岩)の石積みとリアス式海岸の地質的つながり
このリアス式海岸の形成と石積みをつくる緑色片岩は関係があり、佐田岬の伊予の青石に限らず徳島の阿波青石も存在し、その地質のエリアは地滑りが起きやすいことで有名である。これは緑色片岩の岩石の結晶が柱状や板状の直線として一定方向に並んで配列されているため、剥離を起こしやすいという性質があるためである。この剥離しやすい緑色片岩が沈水とともに波によって浸食を受けて崩れてゆくことで、急峻なリアス式海岸が形成されていった。
石積みの集落を訪れるとこの柱状、板状の結晶が並んだ様子を積まれている石からも見ることができる。この緑色片岩の性質は逆に言えば未熟な加工技術を持った集団でも容易に加工が可能な石がたくさんあるエリアと読み替えることもできる。佐田岬半島の石積みの集落はこのようにこの地域の地質と深い関わりをもって形成されていた。
佐田岬半島のオフィスの地元の木材を使った木製家具
佐田岬半島のもっている南北の二つの顔 と 計画されるオフィスがもつ二つの顔 を、北斜面のリアス式海岸の湾が形成する曲線をもったかたちを「relax/癒しの場の家具」として南斜面の海崖や青石が作り出す直線をもったかたちを「focus/集中の場の家具」としてと結びつけることをデザインの足がかりとした。
地元の木材 を 地元の石に 見立てる
次に設計条件となっていた「地元の木材」をどのように使うべきか?を考えた。要求された施工スケジュールを鑑みたときに、既製規格材を組み合わせることが強く求められた。そのため、青石の石積みのように、細かい材を組み合わせて大きなかたちを形成する方向でスタディを進めた。
青石(緑色片岩)の特徴である結晶が柱状・板状に並ぶ特徴は木材とも共通性がある。青石の石積みのなかにも様々な色味の幅があることを鑑みて、白太と赤身の変化が大きいスギ材を主要な木材として利用することを決めた。
最後に佐田岬半島の太陽光と海を感じられるようなデザインはなにか?ということを意識した。これは最終的にガラストップと木格子を組み合わせた天板によって、海中のゆらめきのような光と影を生み出すことで与えられないかとスタディを重ねた。
focus/集中 海崖と青石を意識した細い直線が織りなす緊張感
focus/集中の部屋のテーブルは木格子組の脚を中央にもつ一本足型のテーブルとした。脚部の木格子は縦材を主として横つなぎ材は最小限にし、縦方向を強調させている。この中央の木格子の脚部に天板の下地となる木格子が載る。作業スペースとなる手元付近は木板の天板とし、中央部をガラストップとすることで作業性を担保しつつ、中央の木格子の脚部へ真っすぐに直線状に伸びたガラストップの天板木格子を通した光のゆらめきが当たることで、この部屋の空間の性格を規定する。
relax/癒し 湾のおだやかな曲線
relax/癒しの部屋のテーブルは大きなS字型のカーブをもった脚部によって緩やかな雰囲気を演出している。カーブはスギの間柱材を200㎜の長さでカットしたブロックを積み上げることで、佐田岬半島の石積み集落へのオマージュとしている。
天板は木格子の下地をもつガラストップとして、S字カーブをもった間柱に対して、シンプルに載せたかたちとして、大きな木格子の面から注がれる光と陰のゆらめきがS字カーブのブロックに独特の陰影を生み出していく。
天板の高さは1mと高めのスタンド式のテーブルとして、ゆったりと使ってもらうことを意識づけている。また高さを上げることで、天板からのゆらめきが視覚的に認識できる範囲を最大化し、空間的効果を高めると同時に、ガラストップ・天板への負荷の利用時の軽減を促している。
建築データ
所在地:伊方町三崎支所内
用途:制作家具
製作家具設計期間:2023年8月
制作家具工事期間:2023年8月~9月
建築主:株式会社TREASURY https://treasury.jp/
建築地:愛媛県伊方町三崎支所内
製作家具設計:studio colife3
制作家具施工:株式会社武田林業 https://4est.co.jp/、有限会社後藤建設、株式会社山本木工所 http://www.yamamotomokko.jp/
内装設計:UDS株式会社 https://uds-net.co.jp/
内装施工:株式会社大一合板商事 https://d1gh.com/
写真:studio colife3
掲載メディア
えひめスマイルビジネスNavi
愛媛新聞社 online
https://www.ehime-np.co.jp/article/news202309130189
PRtimes
https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000018.000091755.html
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