高気密高断熱 の建物で窓を開ける 風通し は効果があるのか?
一般解の 気密断熱 の良い家 と 個別解の 風通し の良い家
断熱性を良くすることを考えるときも、恒温動物の特徴は役に立ちます。その一つが表面積と体積の関係です。恒温動物は一般に、熱帯などの暖かい地域では小型で、北極などの寒い地域では大型になると言われています(ベルクマンの法則)。
これは同じ形状の立体が大きくなる時に表面積よりも体積がより大きくなることに起因しています。動物は表面積が大きいほど、外部からの熱的影響を受けたり、発汗によって放熱をすることが出来ます。逆に体積が大きいほど、熱を蓄えやすく、体温を安定させやすくなります。
そのため小型の方が熱を外へ逃がしやすく、熱帯などの暖かい環境に適し、大型の方が熱を外へ逃がしにくく、寒い環境に適するというわけです。


表面積が小さい方が断熱には有利
これを建物に置き換えると、ずんぐりむっくりした立方体のような形状の大きな建物の方が外部からの影響を受けにくく室温を安定させやすいと言えます。
そのため高断熱高気密を宣伝する住宅メーカーの建物形状が必然的に似てくるというわけです。そして断熱性を志向すればするほど設計の選択肢が削ぎ落されて、少ない設計パターンでメーカーは施工することが可能になります。
マスカスタイマイズが進んだハウスメーカー産業において、高断熱を売りにした一条工務店がシェアを大きく伸ばせた要因はこうしたところにあります。
環境を切り離すことで設計条件を減らし、標準化を達成しやすい気密断熱

また断熱を志向することは納まりを考える上でも産業化/一般化に適していました。余計な凸凹が少ない方が断熱性には適するため、施工性が向上し、大壁構法によって気密性を施工精度に寄らずに確保しやすくし、断熱材の種類と厚さでほど断熱性が決まる断熱材を柱間に充填する納まりは、防水・水密・防火上の納まりの標準化とも結びついて、納まり上の選択肢を削ぎ落していきました。
高気密・高断熱を宣伝することは宣伝上のメリットだけでなく産業上/製造上のメリットも兼ねていたというわけです。政府が省エネ政策で断熱性能を押し進める理由も、こうした一般化/標準化がしやすいという面が大きいように思います。
環境を取り込むことで設計条件が増え、個別解になりやすい 風通し

それに対して風通しを良くしようとすることは、その建物が置かれている環境の影響を大きく受けるため、必然的に一般解へは不向きです。
風環境は日照や降雨以上に建物の周辺環境に大きく影響を受けます。そのためその建物が立地している地域環境(気候や地形や地質)を理解するところからはじまります。
どの季節にどういった風が吹きやすいのか?もしくは吹きにくいのか?特徴的な風はないのか?といったことを気象データや現地調査から明らかにしていきます。気象データが乏しい場合は、樹々の樹形を見て、風の傾向を確認したりもします(こうしたことは農家さんたちもやっています)。



こうした大きな風の流れを把握した上で、次にこの流れが敷地に入り込んできたときの振舞いを確認していきます。場合によっては風のシミュレーションをコンピューター上で行い、どのような建物形状が風を取り入れやすいか?もしくは往なしやすいか?どのように開口部を設けたら良いか?ということを検証していきます。
風向きが明確な地域ではその向きに対して開口部を設けたり、庭を設けたりして風を取り入れたり、逆に強風に対しては生垣や石垣などの障害物を設けて往なしたりしますし、風向きは明確でも都市の密集地で直接的に利用しにくいときは、町家建築のように中庭を設けて緩やかに空気が動くように仕向けていったりします。(参考:換気重視で密集地でもプライバシーと採光を確保する光井戸)
また風を取り入れるのに、風だけ取り入れられれば良いですが、太陽光や雨、人の視線など、風以外のものも開口部から入ってくる可能性も周辺環境によっては生じてきます。それらもまた個別解となってる要因として設計条件のなかに入り込んできます。
こうした煩雑な作業は住宅メーカーやビルダーのような量を狙う会社には不向きなため、高気密高断熱でエアコンとエネルギーがあれば最低限の室内環境は確保可能、というかたちで、最低限の窓だけ配置して、どちらかというと疎かにされやすいのが現状です。