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暖かい気候の建築で Heat20 G3を目指す意味はあるのか? 温熱性能と感情の共生から省エネ効果を考える

温暖地(5~7地域)における断熱等級(等級4~7-省エネ基準-ZEH-HEAT20G3)・価格と省エネ効果

最近はSDGsに対する企業の取り組みや高気密高断熱を売りにする住宅メーカーが増えたことによって、多くハウスメーカーや工務店、設計者が最高性能(たとえばHeat20 G3)をお施主様へ提案することが正義のような雰囲気が漂っています。

しかし実は温暖地では寒冷地と違って高気密高断熱の性能を上げることが必ずしも大きな省エネ効果につながるわけではありません。

2倍、3倍の断熱工事費を出したのに、効果がほとんどない可能性もあります。今後の温暖化の影響でこうした傾向は引き続き強まることが予想されます。

省エネ効果は高気密高断熱の性能だけで決まるものではありません。エアコンなどの設備機器の性能を変えたり、設定温度を変えるだけでも場合によっては十分な省エネ効果が得られます。

建築の温熱環境は高気密高断熱の性能だけで決まるものでもありません。PMVという温熱環境の快適さの指標では、温度、湿度、気流、放射温度、着衣量、活動量の6つの要素を利用します。

空気を動かしたり、服を着たり、脱いだりするだけでも、温熱環境はコントロールできます。

建築というのは一度建てると大がかりな変更が難しい固定性能・固定コストとなります。そのため必要・不要に関わらず性能を発揮してくれる代わりに、その分の固定されたコストが掛かります。

それに対してエアコンなどの設備や衣服といったものは小さな初期投資で可変的に使うことができる代わりに、必要なコストも日々の選択によって大きく変動します。

この両者を掛け合わせることで、建築の温熱環境とそのコストの骨格が決まってきます。

この温熱環境の評価は受け手の感覚・感情によって変わってきます。好意に敏感な人、鈍感な人がいるように、暑さ・寒さに対する感覚・感情も人によって千差万別です。

人の感情というものは脳科学の研究から身体の知覚情報と脳の予測情報の組合せによって、能動的に生まれることがわかってきています。

単純に寒い、暑いと知覚した情報を感じているだけでなく、経験にもとづいて寒い、暑いという感情をわたしたち自身がつくりだしているのです。

AIによる個別最適化の時代において、わたしたちは暑さや寒さに主体的に関わるべきだと、私は考えます。

以上を踏まえて、まず温暖地における温熱性能の省エネ効果の概略を見て、それらの人の感情の仕組みについて確認し、これからの温熱環境と人の感情の共生について考えていきたいと思います。

温暖地と寒冷地では温熱環境の考えが変わる

建築の温熱性能は主に断熱性能と気密性能、そして日射遮蔽・取得によって決まります。

断熱と気密が室内と屋外のあいだの熱の移動を抑えることで、屋内側は年間の平均気温を目安に一定に近い気温変化の波形を描くようになっていきます。

そこに太陽からの日射や、照明やパソコンなどの設備の熱、人からの発熱、調理の熱などの内部発熱が加わることで、全体がベースアップするかたちになります。

高気密高断熱になるほど熱が逃げにくくなりますので、夏の日射遮蔽・冬の日射取得の重要性が高まります。北極圏のイヌイットの伝統的住居が外気温-20℃の世界で室温12℃前後を保てるのは、こうした断熱気密と内部発熱を上手く組合せているためです。

断熱性能を2倍にしても、省エネ効果は2倍になるとは限らない

2025年現在の省エネ法の建物の断熱性能(等級4相当)を1としたとき、2030年以降の省エネ法の基準となるZEH(等級5相当)が1.45倍、その上のHeat20 G2(等級6相当)で1.8倍、さらに上のHeat20 G3(等級7相当)で3.3倍程度の断熱性能値を持つことになります。

断熱は厚みで効いてくるので、単純に厚み増える分コストが増える、もしくは高性能な窓サッシや断熱材にすることで単価が上がりコストが増えるかたちになります。

温暖地(5~7地域)における断熱等級(等級4~7-省エネ基準-ZEH-HEAT20G3)・価格と省エネ効果

下のグラフは一般社団法人環境共生まちづくり協会が配布しているシミュレーションツールを使って、四国の省エネ地域区分の4~7地域の気象条件で同じモデル(軒付平屋約74m2(約22坪))で、日中も在宅でリビングでエアコンを使う条件で計算したものです。

計算エンジンには世界で使われているEnergyPlusが使われています。

断熱性能の違いによるエアコンの環境シミュレーション結果

省エネ法基準の建物の年間の空調代が1戸建ての住宅で3万円/年として、下図の例えば地区区分5(茨城)がHeat20 G3(等級7相当)でおよそ2/3なので、それを適用して2万円/年になる条件で考えてみます。

仮に省エネ法基準で断熱工事費が30万に対してHeat20 G3で100万として価格差が70万を、70年で償却していくようなイメージです。

これが地区区分7(土佐清水)だと9/10の10%減だけなので、2.7万/年だとして、70万を230年くらいかけて返す感じになるので、地域によって断熱性能を高めるメリットの現れ方が異なるのが分かると思います。

地点別空調負荷-温暖地における高気密高断熱住宅(H28省エネ法基準、ZEH、Heat20-G3)の消費エネルギー比較-20-28c

暖かい気候では断熱性能による冷房の省エネ効果は限定的

グラフをよく見ると、断熱性能を上げることで暖房の消費エネルギーが効果的に削減できている一方で、冷房はあまり削減されていません。

Heat20 G3ではむしろ侵入した熱が逃げない分だけZEHよりも冷房時の消費エネルギーが上がっているのがわかるかと思います。

温暖地になると年間の空調のエネルギー消費における冷房の割合が増えるので、建物の作り方によってはHeat20 G3の方がZEHよりも消費エネルギーが多くなる=エアコン代が高くなる、という現象も起こり得ます。

出来るだけ高気密高断熱にすれば省エネです/エアコン代が安くなりますと単純に言う人・会社には気を付けてください。

温暖地では省エネ効果は設定温度や重ね着などの方が効果が高い

固定性能としての建築の断熱性能による省エネ効果についてみてきました。次は変動性能がどのように省エネ効果に影響を及ぼすかを見ていきたいと思います。

温暖地では断熱性能を上げるよりも私たちの行動を変える方が消費エネルギーの削減効果があったりします。

高効率な設備に取り替えたり、夏にクールネックリングやサーキュレーターを使ったり水浴びしたり、冬に重ね着やブランケットを使ってエアコンの設定温度を変える方が、圧倒的に効果があります(気温以外の快適さを考慮する、体感温度(SET*))。

地点別空調負荷-温暖地における高気密高断熱住宅(H28省エネ法基準、ZEH、Heat20-G3)の消費エネルギー比較-エアコン設定温度を17℃~29℃に変更した場合

上図のグラフは夏の設定温度を28℃→29℃へ1℃だけ上げ、冬の設定温度を20℃→17℃へ3℃だけ下げたときの削減効果を示したものです。

温暖地の5~7地域ではH28基準のままでもHEAT20 G3にするよりも削減効果が出ています。4地域でも若干上回っていますがほぼ変わらない削減効果が表れています。

特に気候が暖かい7地域での効果は大きい様子が見て取れます。

温暖地では断熱性能以外のいろんな省エネ効果を組み合わせるのが鍵

温暖化は夏の暑さだけでなく冬の寒さも強めていますが、四国は日本海に接していないため冬の寒波の影響を受けにくい立地条件にあるため、今後の温暖化による気温上昇によって、こうした効果はより顕著になるように思えます。

効率の良いエアコンなどの設備に変えれば、能力向上分だけ同じようにエネルギー消費を押し下げてくれるので、断熱性能では下げ止まりしてしまう温暖地での省エネ効果としては効果的な手法となってきます。

エアコンがない環境に対する温暖化による熱波で死亡者が出る欧米で高気密高断熱が熱中症のリスクを高めるという意見が出るのを見ればわかるように、寒冷地と温暖地での温熱環境の整え方は異なります。

温暖地での温熱環境のノウハウはヨーロッパを単純に真似るのではなく独自に開発すべき余地があるように、こうした数値を見ると感じています。

断熱材による製造エネルギーの違いやリサイクル性の違い

今度は金額ではなくエネルギーの観点からこれをみると次のようになります。

断熱材の製造エネルギーの違い-グラスウール、ポリエチレンボード、硬質ウレタン、セルロースファイバー、羊毛、炭化コルク

エネルギー効率が良いのは天然素材

石油・プラスチック系の断熱材、特にウレタンの製造エネルギーの高さが際立ちます。石油・プラスチック系の断熱材は再利用/リサイクルが難しいという点も資源利用の点で課題が残ります。

グラフにはないですが高い断熱性を持つフェノールフォームがウレタンと似たような数値となります。

それに対して、セルロースファイバーをはじめとした天然素材の製造エネルギーの低さが際立っています。セルロースファイバーは単価が下がれば非常に魅力的な断熱材であることが比較するとよくわかります。

リサイクル性は低いが施工性が高いのは吹付系の石油由来素材

吹付硬質ウレタンは施工性の高く手間が減らし品質を確保できることから年間棟数の多い工務店やハウスメーカーで採用されるケースが多いですが、再利用が難しい材が吹付られることでその周囲の素材も分離が難しく再利用が難しくなります。

手間はかかるがリサイクル性は優れるグラスウール

建築時の手間の低減のかわりに、解体時の分別の手間が増えるトレードオフの関係になっています。それに対して同じ工業製品のグラスウールは建築時の手間と施工精度が職人側に求められますが、解体時の分別は容易で、リサイクル率も高いエコシステムが確立されています。

断熱材によって製造エネルギー消費の違いがあるのと、高断熱の方がエシカル・エコロジカルであると言い切るには、断熱材の選択から、その断熱性能の活かし方次第だということもわかると思います。

暑いや寒いといった感情は実は変動する

温暖地では建築の断熱性能以上に、設備の性能や人の行動が、省エネルギーに対して大きな影響を及ぼすことをみてきました。この 人の行動 に大きな影響を及ぼしているのが、人の 感情 です。

暑いや寒いといったものも含めて、感情というものはある固定された刺激(熱)に対して、固定された反応(感情)を返すものではなくて、実は変化するものです。

私たちは暑さや寒さを知覚するセンサーを持っていて、それを使って生存の危機(凍死や熱中症による死亡)を回避します。

感情はそうした危機などの知覚情報を事前に感知し、予防したり、周囲と共有したりするためのツールとして進化のなかで発達してきました。

私たちの感情は内なる自然の声と社会の言葉を結びつける学習によって獲得されたもので、身体の成長や衰え、社会の価値観の変化を通じて時と共に変化します。

それは温熱環境に対しての感情である「暑い」や「寒い」といった感情でも同じです。

感情は予測と知覚の組み合わせから生まれ、変化していく

現在の脳科学では感情は知覚と予測の組み合わせから生まれると考えられています。

暑さや寒さを肌や体内のセンサーが知覚し、神経を介して脳へ情報が送られます。脳はこの暑さや寒さが身体の生命活動に対しての影響を評価します。

その評価にもとづいて、行動を起こすべきときは、なにかしらの気分が生み出されます。この気分が動機づけ(モチベーション)となり、行動指針の予測が行われ言葉と結びつくまでに明確化されたとき、感情として人に意識されるまでに至ります。

経験とともに予測を高め、老いとともに知覚が衰え、感情が変化する

私たちは老いとともに身体感覚が衰え感情が鈍感となって、知覚が鈍くなります。こうすると感情の源泉である知覚情報が疎かになり、例えば本来は暑がらないといけない、寒がらないといけない時に、そうした感情をつくりだすことができないケースがあります。

「Deep Learning for Mobile and Embedded Devices」(Mickey Aleksic, Qualcomm, VLSI Symposium, 2017)
子ども神経ネットワークの発達の様子。思春期前までにたくさんのシナプスが張り巡らされて、その後、必要なものを除いて刈り込まれる。「Deep Learning for Mobile and Embedded Devices」(Mickey Aleksic, Qualcomm, VLSI Symposium, 2017)
老化による脳神経細胞の樹状突起・シナプスの減少と衰退
老化による脳神経細胞の樹状突起シナプスの減少と衰退の様子。加齢とともに脳や身体の神経の突起部が減少・衰退することで、知覚や予測のための情報量が減少し、暑さや寒さに対して鈍感になる。

逆に子どもは若々しい知覚センサーを持っていますが、行動指針の予測を状況に適合させる経験値が低いため、適切な感情表現ができないケースがあります。

老いと子どもの成長は両極端な二つの例ですが、人はこうした知覚と予測の両方を使うことでお互いを補いあって、その場の状況にあった感情をつくりだして、適切な行動を開始します。

知覚や予測の変化・違いがその人や文化の性格へ影響を及ぼす

知覚を重視する性質、予測を重視する、感情を重視する、思考を重視する、それぞれの人格・性格が生まれていきます。

人生経験とともに増える経験値の増加と痴呆による忘却、知覚の成長と衰えと時と共にその人の感情をつくりだす基盤は変化し、それはその人の感情そのものを変え、人格・性格も変えていきます。

年を取って丸みが出た、頑固になる、癇癪がひどくなったとは、そういった知覚や予測のスタイルの変化が表に現れたものです(若いときはスペシャリスト、年を取るとゼネラリスト/脳から 個性 と あこがれ を見直す、自分たちに馴染む家づくりとは?)。

感情は社会との関係によって変わっていく

感情とは周囲との情報共有ツールだと書きました。感情は人類普遍の共通した基盤を提供してくれるわけではなく、言語と同じように感情表現を共有する文化圏のなかで使うことができるものです。

情動はこうしてつくられる 著:リサ・フェルドマン・バレット 身体的現実・社会的現実・世界観の相関図
脳の予測・感情を取り巻く
身体的現実・社会的現実・信念/世界観
情動はこうしてつくられる 著:リサ・フェルドマン・バレットを読む

こうした特徴は海外へ旅行したり、海外からの人を迎い入れて生活を共にするとよく分かると思います。単純に言葉が通じないという問題もありますが、相手がなにを感じているかを理解することがそれ以前に難しい。

しかしそうした壁も、なにかしらの共通項を相手とのあいだで見つけると、相手の感情を、気分を、意図を読み取ることができるようになってくる。

こうした感情表現はスラングや訛りや方言などに見られる機微によって、言語にも表れて、文字の字面だけでは読めないニュアンスを含めてくれます。

言葉は文字という視覚的実体、音という聴覚的実体を持つことで、社会のなかを流通し、たくさんの感情を、水蒸気を巻き取り発達する雲のように絡み取っていきます。

暑い、寒いも、単なる快・不快の気分を表すだけでなく、別れの寂しさや落胆、雪の日の美しさや楽しさ、夏の爽やかさや気持ちの昂ぶりなどと、人の経験の数だけ、多様な感情が生まれます。

そしてある感情は次々に人の心を渡り歩いてゆき、ある感情は消えては、また新たな感情が言葉のまわりに吸い寄せられていきます。

こうした限られた持続性が感情をある特定の地域に縛り付け、特定の文化への扉としての性質をつくり上げます。

日本の四季を建築や衣服の断熱によって緩やかに身体を馴らす

大小の文化がいくつも交錯しながら、川の流れを導く大地のように、私たちの感情や言葉の流れを受け止め、動機付けをしています。

暑いや寒いといった感情一つ取ってもそれは文化です。

エアコンの設定温度の決め方、昼の酷暑を避け早朝や夜間に活動する暮らし方、冬眠するように食糧を貯蔵して越冬する暮らし方、分厚い毛皮の服装や裸同然の姿、火傷や凍傷を避けるアクセサリー、窓の開け方閉め方。

暑いときに見る景色、触る素材。寒いときに見る景色、聞こえる音。促される行動。

平均気温が29℃を超える南スーダンや年間の平均気温が0℃近い北極圏のような、常に活動限界に近い気候のなかの暮らしでは、限界値を見極める知覚と予測を発達させます。

体内の温熱環境に対する基準点が高めに、低めに設定され、活動限界ぎりぎりの暑さや寒さに適応します。

世界の温熱環境と衣服

乾季と雨季のはっきりしたアジアモンスーン地域の東の端に位置し、二季の移行期間を長くもつことで明確な四季をもつ日本は、そうした暮らしと違ます。

季節の巡りのなかでの適切な体内の温熱環境に対する基準点を維持するための変化を見極める知覚と予測=感情を発達させてきました。

世界の温熱環境と日本の温熱環境-緩やかな気温変化の夏と冬、急激な変化の春と秋
日本の年間の気温の変化は緩やかなトップ(夏)とボトム(冬)のあいだを急激な変化(春・秋)がつなぐ

暑熱順化や寒冷順化という言葉が最近使われるようになってきました。体内の温熱環境に対する基準点を積極的に季節と同期させて排熱をしやすくしたり、蓄熱をしやすくする方法です。

人は急激な気温の変化には対応するのを苦手とし、緩やかな気温の変化に対応することを得意としています。

急激な変化は脳の予測エラーの嵐を引き起こし、不快感やストレスによって、脳の活動を低下させます。緩やかな変化は予測エラーと予測修正の適度な循環を生み、温熱環境に対しての感受性を育みます。

同じ温度でも「耐えがたい暑さ・寒さ」から「心地よい暖かさ・涼しさ」へと感情が構成し直され、活動の動機付け(モチベーション)が維持されます。

衣服や建築の断熱性能や蓄熱性能は、寒さに耐えたりエアコンの省エネ効果を上げるためだけでなく、人体や室内環境の季節の変化を緩め、徐々に身体を馴染ませるサポートをしてくれます。

日本の温暖地においては特にこうした変化の緩和効果に着目すべきに思えます。

こうした建築の効果は普段意識されることがあまりありませんが、公共福祉・公衆衛生対策としてホームレス対策が非常に高い費用対効果を発揮するところに明確に現れています。

AI時代の暖かい、涼しいといった感情は、機械と私たち自身がつくりだすもの

住宅のような特定の少人数の集団における文化とオフィスのような特定ですが大人数の集団における文化、そして大都市の商業施設や駅のような不特定多数の集団における文化では、集団の規模や集団内の多様性の度合いによって、求められる温熱環境も変わってきます。

脳科学の視点からみると、人の感情は一人一人個性があり、個の感情を詳細に見れば全体の感情がぼやけて、全体の感情を統計的に見れば個々の感情の実体はぼやけてしまう、そう言った類のものだと言えます。

これまでの建築環境工学はオフィスや工場の中央管理による空調制御を目的として、PMV指標のような統計的手法を用いた平均的全体最適化を目指していましたが、個々の感情の違いに着目した個別最適化のための仕組みを目指す方向にシフトしてきています。

PMV指標-1
PMVとPPD(不満足率)
岐阜県立森林文化アカデミー

PMV:温度、湿度、気流、放射温度、着衣量、活動量の6つの要素から、環境に対する集団の平均的な快適さを測る値、PMVを用いてPPD:推定不満足率(環境を不快に思う割合)を統計的に算出することもできます。

これまで見てきたように感情とは身体の知覚と脳の予測の組み合わせによって能動的に生み出されるものです。

この人の感情の仕組みが示しているのは、これまでの機械が統計的最適化し与えてくれる温熱環境を享受するという姿勢から、機械に頼るだけでなく個々も積極的に温熱環境にアクセスし個別最適化することが、暑いや寒い、暖かや涼しいといった感情には重要であるということです。

AI時代とは人と機械の共生の時代と言えるでしょう。

こうした個別最適化は活動限界の上限や下限にある南スーダンや北極圏のような環境よりも体内の基準点を四季のなかで変化させる必要がある日本でこそ生きます。(活動限界の上下限は統計的最適化が提供する予防的アラーム機能こそ必要であり、日本でも熱中症で亡くなる高齢者の衰えた知覚・感情のサポートを果たしてくれるでしょう。)

私は建築の温熱環境はそうした人が積極的に関われる余白を計画の段階から用意して、感情を育めるようにすべきだと考えます。

温暖地に能動的なメニューを提供する風のトンネル

松山市の道後平野の久米窪田に建つ住宅は、夏の太陽光を遮り冬の日射を取り入れる大きな屋根とZEH基準の外皮で覆われた風のトンネルに、重信川がつくりだす風を最大限に取り込める工夫をしました。

高気密高断熱の外皮が室内環境の季節の変化を緩め、風のトンネルが内外をつなぐことで窓を開けたり、閉めたりすることで、季節の変化を能動的に調節できます。

風と火と農家住宅_夏の風通しの考え方
風と火と農家住宅_冬の暖房の考え方

風のトンネルは1階と2階をつなぐ大きなワンルームの吹抜け空間となっています。通常は吹抜けのワンルームは冷やしたり暖めたりする空気の体積が増えるため空調エネルギーが大きくなるという温熱環境のデメリットがあります。

幸いなことに松山市は省エネ地区区分で地区区分7という暖房エネルギーがそれほど大きくない地域のため、その影響が小さく抑えられます。

代わりに夏の空調エネルギーは大きくなりますが大きな風のトンネルが熱を外へ逃がす道となり、夜間の外気温が下がれば室内空気を素早く換気してくれます。

日中は外気温が上がるまでは自然の風による換気を、気温が上がった時間は1階は高断熱の外皮に覆われた空調空間として、2階は温まった空気を逃がす風のトンネルとしての役割を果たします。

1階にはさらに小さな小部屋として区画できる空調空間を用意し、季節の変化に応じて能動的にいろいろなメニューが選択できる工夫をしています。

風と火と農家住宅_格子を持つ大開口部
風と火と農家住宅 吹抜け内観
風と火と農家住宅 午後の光
風と火と農家住宅 秋の俯瞰図

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